法科大学院とは|司法試験コラム

『司法試験』を受験するには, 『予備試験に合格する(予備試験ルート)』か『法科大学院を卒業する(法科大学院ルート)』という2つのルートがあります。このうち,予備試験ルートは,大学在学中に合格することによって,最短で司法試験に合格することが可能です。

一方で,法科大学院ルートは,双方向・多方向の授業や実務研修,体験研修などを通じて,大学では得がたい知識を修得することができます。このように,どちらのルートにもメリットがあり,進路選択にあたっては両者を吟味して決定する必要があります。また,法科大学院ルートを選択する場合には,法科大学院ごとにそれぞれ特色があるため,法科大学院選びにも細心の注意を払う必要があります。そこで,本ページでは,上記2つのルートのうち,法科大学院ルートを紹介します。

法科大学院とは

法科大学院とは,法曹(弁護士・検察官・裁判官)に必要な知識や能力を培うことを目的とする専門職大学院のことをさします。法科大学院は,多様な問題に対応できる質の高い法律家を養成するために2004年(平成16年)4月に創設され,現在は全国に43校(2018年4月現在)存在します。法科大学院では,少人数制での教育を前提とし,双方向・多方向の授業,実務研修や体験学習など密度の濃い授業が行われます。また,法科大学院では,研究者教員に加え,実務家教員も積極的に教壇に立つため,理論と実務をバランスよく修得することができます。

コース設定は,社会人をはじめ,さまざまなバックグラウンドの人材を確保するため,未修者を対象とした3年コースと,法学既修者を対象とした2年コースを用意しているほか,社会人のための夜間コースを用意している法科大学院も存在します。学費は,国立大学では80万4千円,私立大学では55万~170万円と幅がありますが,110万円前後の法科大学院が多くみられます。もっとも,学費の免除制度や補助金制度を用意している法科大学院も多数存在します。

法科大学院に入るには

法科大学院に入るには,試験を突破する必要があります。

◆適正試験(平成30年は廃止)

物事に対する判断力,分析力,長文読解力,表現力などが問われる試験です。通常は年に2回実施されています。試験は4部構成となっており、それぞれの試験時間は40分と短いため、スピーディかつ的確に回答していく必要があります。

◆既習者試験

既修者コースを志望する人のための試験です。法学検定試験委員会が実施するもので,基本的な法律科目である憲法・民法・刑法・商法・民事訴訟法・刑事訴訟法・行政法についての知識水準を客観的に評価します。提出は各法科大学院に委ねられており,提出を義務付けている法科大学院もあれば,任意提出を求める法科大学院も存在します。

◆各法科大学院の個別試験

法科大学院に入るための最大の関門といえるのが,各法科大学院の個別試験です。通常は,既習者コースでは法律論文,未修者コースでは小論文が課せられます。私立は8月頃,国立は11月頃に行われます。既習者コースの傾向としては,私立では短い試験時間の中で基本的な問題を問われることが多く,国立では試験時間が長く応用的な問題を問われることが多いといえます。

法科大学院選びのポイント

一口に法科大学院といっても,それぞれに特徴があり,法科大学院選びの際にはその特徴を意識しておく必要があります。この点,法科大学院の特徴については,各法科大学院が作成するパンフレットやホームページを通じて知ることができます。もっとも,各法科大学院の特徴が分かったとしても,それを比較できなければ法科大学院を選ぶことはできません。そこで,法科大学院選びにおいて意識すべきポイントをお伝えいたします。

◆法科大学院における司法試験の合格率

法科大学院を目指す最大の理由は,司法試験への合格にあります。そうだとすれば,司法試験の合格率の高さから,教育の質の高さや,学生のレベルの高さを推し量ることができるのですから,司法試験の合格率は,法科大学院選びの重要な要素になるのです。ただし,法科大学院には一学年20人程度の小規模校から,200人を超える大規模校まであり,小規模校の場合は,数人の合否で合格率が大きく変動するため,留意が必要です。各法科大学院の司法試験合格率はネットで簡単に検索することができますので,過去数年間の推移や累計平均を参考にしてみると良いでしょう。

◆法科大学院の学習環境

司法試験の受験勉強は長丁場となるため,日々の学習環境はとても重要です。各自の固定席が用意されているか,空調設備はどうか,静穏な環境が保たれているかなどについて,各法科大学院のホームページや法科大学院に通う学生のブログなどを参考にして,比較をしてみるのが良いでしょう。

◆法科大学院に著名な教授が在籍している

やはり,各法律分野で著名とされている教授の講義は,勉強になることが多いです。また,普段から使用している書籍の著者が目の前で講義するのですから,書籍で得た知識の理解度をより深めることにつながります。教員の情報は,各法科大学院のホームページやパンフレットなどに掲載されていますので,ご自身が使用している書籍の著者が在籍しているか,調べてみると良いと思います。

◆自分がどのような法律家になりたいのかを意識する

法科大学院ごとに,「市民法務に強い」「金融法務に強い」「渉外法務に強い」といった特徴がありますので,自分のなりたい法律家像に合致した法科大学院を選ぶことが重要になってきます。中には後の就職活動に大きく影響することもありますので,十分意識しておく必要があります。

法科大学院ルートのメリットとデメリット

法科大学院ルートのメリットとしてまず挙げられるのが,法律学の理論と実務についてより深く学ぶ機会をもつことができる点です。法科大学院では,大学と比べて教員と学生の距離が近く,分からないことがあれば気軽に教員に質問できる環境が整っています。また,双方向・多方向の授業が展開されるので,教員との対話の中で新たな発見をすることも多くあります。さらに,法科大学院では,実務家教員をはじめとして,多くの実務家と話す機会があるため,自分の目指す法律家像の参考にしたり,法曹界への人脈を広げることができます。

また,法科大学院には,司法試験受験に向けて同じ目標を持った仲間が集まっています。試験範囲の幅広い司法試験ですべての科目に一人で精通するのは大変なので,自主ゼミを作るなどして,お互いに教え合うことができるという点も大きなメリットです。

加えて,エクスターンシップなどを通して,法曹になった後で役立つコンサルテーション能力などを磨けることも挙げられます。企業とのやりとりや,依頼人の信頼を得るコミュニケーションなども実地で身につけることができます。

一方で,法科大学院ルートのデメリットは,予備試験ルートと比べて司法試験合格までに時間とお金がかかる点にあります。大学卒業後すぐに就職した仲間が仕事をしている中で勉強を続けることはそれなりに苦痛ですし,100万円近くの学費を2年又は3年にわたって支払うことも負担になります。ただし,予備試験ルートと法科大学院ルートを並行して対策を進めることも可能ですので,法科大学院ルートを目指す価値は十分あります。

司法試験の合格率(法科大学院別)

平成30年の司法試験の全体の合格者数は1525名でした。そのうち、法科大学院全体からの合格者数は1189人(受験者数は4805人)で合格率は24.75%となっています。毎年,司法試験合格率トップを争う最難関法科大学院といわれる東京大学法科大学院,京都大学法科大学院,一橋大学法科大学院,慶応義塾大学法科大学院が合格率約40%以上です。中でも京都大学,一橋大学,そして今回,東北学院大学が合格率60%で他の法科大学院との差を広げています。平成30年の司法試験における法科大学院別の合格率のランキングは以下の通りとなっています。

▼合格率1位~10位 ※()内は受験者数と合格者数

1位 東北学院大学 60.00% (5人中3人)

2位 一橋大学   59.50% (121人中72人)

3位 京都大学   59.26% (216人中128人)

4位 東京大学   48.02% (252人中121人)

5位 神戸大学   39.53% (129人中51人)

6位 慶應義塾大学 39.20% (301人中118人)

7位 大阪大学   37.59% (133人中50人)

8位 早稲田大学  36.54% (301人中110人)

9位 九州大学   33.33% (87人中29人)

10位 名古屋大学  30.53% (95人中29人)

▼合格率11位~20位 ※()内は受験者数と合格者数

11位 白鴎大学   28.57% (7人中2人)

12位 東北大学   27.27% (55人中15人)

13位 香川大学   25.00% (12人中3人)

14位 広島大学   25.00% (48人中12人)

14位 中央大学   23.22% (435人中101人)

16位 愛知大学   23.08% (13人中3人)

17位 信州大学   22.73% (22人中5人)

18位 首都大東京  22.33% (103人中23人)

19位 岡山大学   21.57% (51人中11人)

20位 創価大学   21.31% (61人中13人)

法科大学院入試と予備試験との比較

法科大学院入試と予備試験の類似点は,どちらも法律家としての素養を図る試験であることにあります。試験形式は両者異なっているものの,各法律の基本的な論点を抑えているか,法的三段論法がしっかりできているか,事実を摘示したうえで適切に評価しているか,時間内に答案を完成させることができるかなど,問われている本質は同じです。

一方で,法科大学院入試と予備試験には様々な相違点があります。まず,試験形式が異なります。一般的な法科大学院では,ステートメントや学部の成績等による書類選考の後,論文試験が課されることが多いですが,予備試験では,1次試験の短答式試験,2次試験の論文式試験,3次試験の口述試験に分かれており,すべての試験に合格する必要があります。また,試験問題も異なります。一般的な法科大学院入試では,7法又は行政法を除く6法が試験科目となることが多いですが,予備試験の場合,1次試験では7法のほかに一般教養科目が課され,2次試験では,7法及び一般教養科目のほかに民事実務基礎・刑事実務基礎科目が課されます。

さらに,難易度については,一般に予備試験の方が,法科大学院入試よりも難しいとされています。予備試験の合格率は約4%と非常に低く,最終合格に至るには相当な実力が必要です。

在学中に予備試験に合格する

法科大学院在学中に予備試験を受験し,合格することも可能です。既習者コースであれば1年目まで,未修者コースであれば2年目までに予備試験に合格すれば,法科大学院卒業による司法試験受験資格の取得より先に受験資格を得ることができます。また,法科大学院の最終学年に予備試験を受験し合格する人もいます。たとえ,司法試験受験資格を早く得られなくても,予備試験に合格すれば,翌年の司法試験への自信になりますし,就職活動にも有利に働くからです。現に,予備試験最終合格者の約4分の1は,法科大学院生で構成されています。ただし,法科大学院に入学したにもかかわらず,予備試験合格を理由に退学することは,法科大学院側にとって好ましからざることですので,一定の覚悟が必要といえるでしょう。

予備試験合格率と受験者数の推移

法科大学院生の予備試験受験者数と合格率の推移についてみていきましょう。平成25年以降は1000人を超える法科大学院生が受験し,100人以上が合格しています。合格率も10%程度と,全体の合格率である約4%を大きく上回っていることが分かります。近年は,法科大学院生の受験者数が減少傾向にありますが,これは全体の法科大学院生数の減少によるものと考えられます。いずれにせよ,多くの法科大学院生が予備試験を受験し合格していることがデータから見て取れます。

▼法科大学院生の予備試験受験者数と合格率

受験者数 合格者数 合格率
平成23年 192人 8人 4.16%
平成24年 526人 61人 11.59%
平成25年 1456人 62人 11.12%
平成26年 1846人 165人 8.93%
平成27年 1710人 137人 8.01%
平成28年 1611人 153人 9.49%
平成29年 1408人 107人 7.59%
平成30年 1298人 148人 11.40%

社会人が通うなら、夜間のある法科大学院

筑波大学や駒澤大学などの一部の法科大学院では,夜間や土曜日に授業を行うことで単位を取得し,司法試験受験資格を得ることができるコースを用意しています。これらの法科大学院は,多様なキャリアを持った法曹人の養成や,社会人のキャリア転換志望という社会的需要に応えることを目的としており,これにより,平日働いている社会人であっても,法科大学院に通うことが可能となっています。

法科大学院数の推移と募集停止

ピーク時には74校あった法科大学院ですが,現在は36校に減少し,半数以上の法科大学院が廃止や募集停止に追い込まれています。このように,募集停止した大学の中には,地方を代表する国立大学や人気の高い私立大学が並んでいます。法科大学院志望者が減少する中で,国は新たな制度改革を行う必要があるのかもしれません。

▼廃止や募集停止になった法科大学院

年度 法科大学院
平成24年度 姫路獨協大
平成25年度 大宮法科大学院大、駿河台大、明治学院大、神戸学院大
平成26年度 東北学院大、大阪学院大
平成27年度 白鴎大、獨協大、東海大、関東学院大、大東文科大、新潟大、信州大、龍谷大、島根大、広島修道大、香川大、鹿児島大、久留米大
平成28年度 国学院大、東洋大、神奈川大、山梨学院大、静岡大、愛知学院大、中京大、京都産業大、熊本大
平成29年度 成蹊大、名城大
平成30年度 北海学園大、青山学院大、立教大、桐蔭横浜大
平成31年度 横浜国立大、近畿大、西南学院大

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