大阪大学法科大学院(ロースクール)入試の過去問の出題傾向と対策について解説しています。

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入学試験の概要

試験時期

一般選抜(法学既修者コース)及び特別選抜(法曹コース開放型・法曹コース5年一貫型)
令和6年 10 月 19 日(土)
①公法(憲法・行政法)
②民事法1(民法)
③民事法2(商法・民事訴訟法)
④刑事法(刑法・刑事訴訟法)

募集人員

55 名程度
(うち「特別選抜(法曹コース5年一貫型)」13 名程度、「特別選抜(法曹コース開放型)」8名程度を含む)

試験形式

・論述式試験(憲法 50 点、行政法 50 点、民法 100 点、商法 50 点、民事訴訟法50 点、刑法 50 点、刑事訴訟法 50 点):400 点満点
・出願書類:20 点満点(法曹コースの場合、大学の成績:45 点満点)
・合計 420 点満点(法曹コースは 445 点満点)
・書類審査、法律科目試験の成績により総合的に合否を判定する。

試験科目

⑴ 公法(憲法・行政法)

・試験時間:90 分
・問題数:2問(憲法1問・行政法1問)
・配点:100 点(憲法 50 点・行政法 50 点)

⑵ 民事法1(民法)

・試験時間:90 分
・問題数:2問
・配点:100 点

⑶ 民事法2(商法・民事訴訟法)

・試験時間:90 分
・問題数:合計2問(商法1問・民事訴訟法1問)
・配点:100 点(商法 50 点・民事訴訟法 50 点)

⑷ 刑事法(刑法・刑事訴訟法)

・試験時間:90 分
・問題数:2問(刑法1問・刑事訴訟法1問)
・配点:100 点(刑法 50 点・刑事訴訟法 50 点)

※関連コラム:大阪大学法科大学院の特徴・入試情報

科目別の傾向と対策

憲法

出題形式

事例問題が1題出題され、違憲主張又は裁判官の視点(又はあなたの見解)からの主張を論述させる形式が採られている。
出題範囲の指定は特にない。

出題内容

内容としては、法の下の平等、信教の自由、表現の自由、経済的自由など受験生が比較的重点的に学習していると思われる権利が問題となっているといえる。
また、百選に掲載されている判例や過去の司法試験が素材となっているものが多い。

試験対策

試験対策としては、精神的自由・経済的自由など受験生が重点的に学習していると考えられる権利の学習、司法試験や百選掲載判例に一通り目を通しておくことが有効である。

【2024】
・集会の自由
・成田新法事件
・泉佐野市民会館事件
【2023】
・司法権の限界
・結社の自由及び表現の自由
・政党
【2022】
・学問の自由
・プライバシー権
【2021】
・集会の自由
・プライバシー権
【2020】
・取材の自由
・警察による取材テープの差押え
【2019】(二次募集含む)
・法の下の平等
・信教の自由、政教分離、公の財産の支出
【2018】(二次募集含む)
・経済的自由
・ヘイトスピーチと表現の自由
【2017】(二次募集含む)
・表現の自由
・未成年者の人権
・岐阜県青少年保護育成条例事件
・政教分離
・愛媛県玉串料訴訟
・内閣総理大臣の靖国神社公式参拝
【2016】
・集会の自由
・泉佐野市民会館事件

行政法

出題形式

事例問題が1題出題され、原告、被告又は裁判官の視点からの主張を論述させる形式が採られている。出題範囲として、行政法総論(行政救済法を除く)が指定されているのが特徴的である。

なお、2024 年度は、第1問・第2問という大問形式で問われた。
第1問は事例問題、第2問は語句説明問題となっていた。

出題内容

出題論点としては、いずれも有名なものが取り上げられているといえる。
また、受験生が初めて目にするであろう個別法の解釈が問われることもある。

試験対策

試験対策としては、有名な論点について漏れの無いように学習する必要がある。
また、これは行政法の学習一般についていえることだが、行政法はいわゆる論証パターンを貼り付けて答案が完成するといった問題が出題されることは比較的稀である。

具体的な事案の中で論点を抽出し、事案に応じた解決を導くトレーニングを行う必要がある。

さらに、個別法の解釈が問われることも多いため、初見の条文を見てどの条文が重要であるのかを見抜く能力も養う必要がある。

以上の能力を培うためには、判例に当たる際に事案と参照条文に目を通すこと、問題演習を行うことが有効である。

【2024】
・無差別一斉検問の法的根拠
・無差別一斉検問の適法性
・行政上の直接強制、行政代執行、即時強制
【2023】
・行政処分の手続の瑕疵とその効果
・裁量処分の司法審査
【2022】
・行政行為の職権取消し及び撤回
・明文の法的根拠なき行政行為の撤回の可否
・授益的行政行為の撤回の可否
【2021】
・行政手続法上の違法事由
・原告適格
【2020】
・行政上の強制執行の手段
・取消訴訟の排他的管轄
・裁量権の逸脱濫用
【2019】(二次募集含む)
・行政指導の限界
・申請型義務付け訴訟
・処分の違法性
・取消訴訟における狭義の訴えの利益
【2018】(二次募集含む)
・処分性
・損失補償
・訴えの利益
・処分の違法性
【2017】(二次募集含む)
・理由提示の瑕疵
・手続の違法と処分
・行政代執行
・民事手続による強制
【2016】
・処分の違法性
・違法性の承継

民法

出題形式

近年は、第1問(配点 50 点)で 10 行~15 行程度の行数指定がある簡単な事例問題が問われ、第2問(配点 50 点)で行数指定がないやや長めの事例問題が問われる傾向にある。

長めの事例問題については、請求の当否を問うものが多い。
出題範囲の指定は特にない。

出題内容

出題論点としては、基本的には有名なものが取り上げられているといえる。

語句説明や簡単な事例問題では、家族法分野からの出題もある。
ただし、これについても著名な論点が出題されている。

試験対策

全体として、著名な論点・判例について問われることが多いことから、基礎的な論点・判例について網羅的に学習することが有効である。

特に、判例百選掲載の判例がそのまま事案として出題されることがあるため、百選掲載判例については事案と判旨を読み込んでおくことが有効である。

また、家族法分野からも出題があるため、基本書・参考書等を通じて一通りの理解を深めておきたい。

【2024】
・「第三者」(94 条2項)の意義、登記の要否
・「第三者」(177 条)
・転用物訴権
・受領義務違反に基づく解除の可否
・危険負担
【2023】
・債権譲渡
・請負目的物の所有権帰属
・本人が無権代理人を相続した場合の法律関係
【2022】
・過失相殺
・抵当権の効力が及ぶ範囲
・抵当権に基づく妨害排除請求
・契約不適合責任としての代金減額請求と損害賠償請求
【2021】
・危険負担制度
・「所有の意思」と「新たな権原」(185 条)
・物上代位と債権譲渡の優劣
・敷金返還請求権と賃料の充当
【2020】
・表見代理
・不法行為に基づく損害賠償請求権(709 条)の相続
・遺族固有の精神的損害に対する賠償請求(711 条)
・所有権に基づく妨害予防請求
・所有権の帰属
【2019】(二次募集含む)
・177 条の「第三者」(背信的悪意者からの譲受人について)
・債務不履行責任、損害賠償額の算定時期
・説明義務違反を理由とする損害賠償請求
・親子間の利益相反
・第三者弁済
・危険負担
・不当利得返還請求
【2018】(二次募集含む)
・94 条2項の類推適用
・即時取得と占有改定
・解除による原状回復義務と保証人の責任
・無権代理人の本人相続
・和解と錯誤
・請負契約における所有権の帰属
【2017】(二次募集含む)
・過失相殺と身体的特徴の斟酌
・推定を受ける嫡出子と推定を受けない嫡出子
・白紙委任状と代理権授与表示
・転用物訴権
・共同相続人間における相続回復請求権
・所有権の時効取得
・時効と登記・背信的悪意者排除論
【2016】
・差押えと相殺
・財産分与と離婚慰謝料との関係
・抵当権に基づく妨害排除請求
・不動産物権変動と借地借家法の適用を受ける賃借権

商法

出題形式

近年は、第1問(配点 30~40 点)で事例問題が問われ、第2問(配点 20~10点)で条文の趣旨の説明、判例の説明、正誤問題等が出題される傾向にある。

出題内容

事例問題は有名な論点が問題となる事例が出題されており、難易度はそこまで高くない。
また、判例の説明や正誤問題も著名な論点・判例から出題される傾向にある。

一方で、条文の説明については受験生にあまり馴染みのない条文から出題されることが多い。
出題範囲として、会社法が指定されている。

試験対策

事例問題、正誤問題や判例の説明については、著名な論点・判例について問われ
ることが多いことから、基礎的な論点・判例について網羅的に学習することが有効
である。

条文の説明については、あまり馴染みのない条文から出題されるため、一見する
と難しく感じるかもしれない。
しかし、制度趣旨に立ち返って検討すれば、正解に近い答案を作成することが可能である。

したがって、会社法の基本的な制度趣旨について学習することが重要であるといえる。
【2024】
・役員等の会社に対する損害賠償責任(423 条1項)
・利益相反取引該当性
・任務懈怠の推定(423 条3項)と推定の覆滅
・検査役の選任(207 条1項)の趣旨
・検査役の選任が不要とされる場合(207 条9項 2 号)の趣旨
【2023】
・取締役の報酬の減額
・公開会社と非公開会社における募集株式の発行権限を有する機関
・貸借対照表の公告制度
【2022】
・株主総会決議取消の訴え
・裁量棄却
・変態設立事項
・会社法 428 条
【2021】
・自己株式の取得
・株主総会における議題の通知
・会計帳簿閲覧請求
【2020】
・株主代表訴訟
・利益相反取引
・取締役の責任(423 条)
・特別利害関係取締役
・基準日後に自己株式を取得した者の取扱い
【2019】(二次募集含む)
・決議取消訴訟の訴えの利益
・監査役の任期
・新株発行無効の訴えの提訴期間
・利益相反取引
・784 条の2第 2 号の差止事由
【2018】(二次募集含む)
・新株発行差止めの訴え
・株主総会決議の瑕疵
・207 条1項の検査役の選任の趣旨
・207 条9項 5 号の趣旨
・株主総会決議取消しの訴え
・名義書換え未了の株主の取扱い
・剰余金の配当等に関する責任免除
・取締役の報酬等における説明義務
【2017】(二次募集含む)
・議決権の代理行使
・退職慰労金
・株主総会の否決決議の取消しの訴え
・株式買取請求における公正な価格
・取締役会決議を欠く重要な業務執行
・一人会社における取締役決議
・利益供与
・定款に定めのない財産引受け
・株式の共有
・退職慰労金の撤回
・取締役権利義務者の解任
・他の株主に対する株主総会招集手続の瑕疵と決議取消しの訴え
【2016】
・株主総会決議の瑕疵
・取締役会決議を欠く重要な財産の処分
・瑕疵ある事業譲渡

民事訴訟法

出題形式

事例問題1題に加え、正誤問題や一行問題・説明問題が出題されることがあるが、近年は事例問題1題の中で2つの設問に答えさせる形式が多い。

出題内容

出題論点としては、弁論主義、処分権主義、重複訴訟、既判力、自白など、有名な論点について出題される傾向にある。

また、判例についての理解を問うものもある。
出題範囲として、第1審の判決手続が指定されている。

試験対策

試験対策としては、民事訴訟法の代表的な論点について学習し、基礎的な事項をもれなく押さえるとともに、百選掲載判例について事案を整理し、理解を深めることが有効である。
【2024】
・当事者の意義
・当事者適格
・給付の訴えの利益
・法人が当事者となる場合の諸問題
【2023】
・訴訟行為の効力一般
・既判力の範囲及び効力
・信義則及び争点効
【2022】
・既判力と形成権の行使
・相殺の抗弁と既判力
【2021】
・相殺の抗弁と重複起訴禁止の原則
・相殺の抗弁と既判力
【2020】
・既判力の時的限界
・既判力の客観的範囲
【2019】(二次募集含む)
・裁判上の自白(権利自白)、裁判上の自白の撤回
・損害賠償請求訴訟の訴訟物
・訴訟物理論
【2018】(二次募集含む)
・一部請求後の残部請求
・標準時後の事情変更̶̶後遺症
・基準時後の形成権の行使
【2017】(二次募集含む)
・弁論主義
・既判力の時的限界
・既判力の客観的範囲
【2016】
・主張共通の原則
・弁論主義の適用範囲
・先行自白
・債権者代位訴訟における訴訟要件
・債権者代位訴訟と二重起訴
・相殺と二重起訴

刑法

出題形式

事例問題1題が出題される。オーソドックスな罪責検討型で出題されており、共犯関係についても問われることが多い。

出題内容

出題論点としては、総論分野では不作為犯、因果関係、錯誤、正当防衛など満遍なく出題されている。各論分野では、窃盗・詐欺・強盗・横領などの財産犯に加え、放火・文書偽造などから出題される傾向にある。
出題範囲の指定は特にない。

試験対策

出題される論点は比較的有名なものが多いことから、試験対策としては基礎的・典型的な論点について総論分野は満遍なく、各論分野は財産犯、放火・文書偽造の罪を中心に学習しておくことが有効といえる。

【2024】
・窃盗罪の成否̶̶不法領得の意思
・誤想防衛
【2023】
・権利行使と恐喝
・傷害罪の共同正犯
・共犯関係の解消
【2022】
・中止犯
・脅迫罪
・現住建造物放火罪における建造物の一体性
・刑法 38 条2項
【2021】
・作為義務
・因果関係
・間接正犯
【2020】
・誤想防衛
・故意
・共犯関係の処理
【2019】(二次募集含む)
・住居侵入、強盗
・強盗の機会に生じた死傷結果
・共謀の射程
・共犯関係からの離脱
・因果関係
・正当防衛(正当行為)
・共同正犯と幇助の区別
【2018】(二次募集含む)
・殺人罪の故意
・具体的事実の錯誤
・現住建造物放火罪における現住性の認定
・共犯間の錯誤
・過失犯
【2017】(二次募集含む)
・詐欺罪における処分行為
・共同正犯と正当防衛
・誤想防衛
・共同正犯と離脱
・因果関係
・不作為による殺人
【2016】
・コピーの文書性
・ローンカードの財物性
・横領と背任
・共謀共同正犯

刑事訴訟法

出題形式

近年では、第1問と第2問に分かれ、一方の大問で事例問題(配点 20 点)が問われ、他方の大問で3つの語句を説明させる1行問題(配点 30 点)が問われる。

事例問題は、下線が引かれることは少なく、問題文に記載されている司法警察職員の措置の適法性を検討させるものが大半である。語句説明問題は行数指定があることもある。
配点が思いのほか大きいことにも留意したい。

出題内容

事例問題については、捜査分野から重要な判例や有名な論点についての理解を問うものが多い。
一方で、語句説明については、これまで論述したことのないような語句についての説明を求められることがある。

出題範囲として、第1審の手続までが指定されている。

試験対策

事例問題対策としては、捜査分野の著名な判例・論点について学習しておくことが有効である。
語句説明については、普段から条文を引く習慣をつけ、刑事訴訟制度について理解を深めておくことが重要である。

【2024】
・令状に基づく捜索差押えの要件
・勾留質問
・冒頭陳述
・不起訴約束による自白
【2023】
・弁護人依頼権
・実況見分調書の証拠能力
・嫌疑なき起訴
・違法収集証拠排除法則
・別件捜索
【2022】
・違法収集証拠排除法則
・初回接見指定の適法性
・事件単位の原則
・状況証拠
・公訴事実の同一性(312 条1項)
【2021】
・職務質問
・現行犯逮捕
・令状の呈示
・国選弁護人
・供述書
【2020】
・伝聞証拠(動画・実況見分調書)
・余罪取調べ
・迅速裁判
・二重の危険
【2019】(二次募集含む)
・訴因変更の可否
・再逮捕
・付審判請求
・供述録取書
・証拠開示命令
・鑑定留置
・起訴状一本主義
・公判廷における伝聞供述
【2018】(二次募集含む)
・勾留期間の延長
・冒頭陳述
・再伝聞証拠
・勾留質問
・指定弁護士
・弾劾証拠
・捜索差押えと写真撮影
【2017】(二次募集含む)
・第一回公判期日前の証人尋問
・国選弁護人
・証拠の関連性
・職務質問と所持品検査
・再逮捕
・接見禁止処分
・同意書面
【2016】
・接見指定
・未発生の犯罪の捜査
・余罪取調べ
・縮小認定
・被害再現写真の証拠能力

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一之瀬 和彦

この記事の著者 一之瀬 和彦 講師

一之瀬 和彦 講師

中央大学 法学部 卒業、明治大学法科大学院 法務研究科 卒業。
司法修習修了(第70期)後、弁護士登録。

私は複数回、受験に失敗しました。この試験に向いていないのではないかと何度も諦めかけました。
何度も挫折を味わってきた私だからこそ、多くの受験生がつまずくポイントを熟知しています。
私の失敗を反面教師として皆様には是非とも合格を勝ち取っていただきたいです。

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