筑波大学法科大学院(ロースクール)入試の過去問の出題傾向と対策について解説しています。

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入学試験の概要

筑波大学の入試時期、募集人員、試験形式、試験科目、試験時間についてまとめました。

試験時期

例年の傾向としては、筆記試験が9月頃に行われ、10 月頃に口述試験が行われる。


募集人員(法学既修者)

36 名(法学未修者コース 26 名、法学既修者コース 10 名)

試験形式

筆記試験が行われ、その合格者を対象に口述試験が行われる。口述試験の成績に加えて、論文式試験及び提出書面の評価が加味され、最終合格が決まる。既修者試験の配点割合は、論文:口述:書面=4.5:1:1。

試験科目・試験時間

試験科目は、憲法、民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法の5科目。令和 7 年度試験の時間割は以下の通り。

・10:00~12:00(120 分)    民法、民事訴訟法(150 点、50 点)

・13:00~14:30(90 分)   刑法、刑事訴訟法(100 点、50 点)

・15:00~16:00(60 分)   憲法(100 点)

科目別の傾向と対策

民法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法、憲法の過去問の傾向と対策について解説をしていきます。

民法

・2024 年度…代理権の濫用、無権代理と相続、先取特権と第三取得者、契約締結上の過失

・2023 年度…履行不能にまつわる法律問題(債務不履行に基づく損害賠償請求、解除、危険負担、受領遅滞)、工作物責任、不法行為の被害者が別の原因で死亡した場合の逸失利益及び介護費用の賠償額への影響、消滅時効

・2022 年度…集合動産譲渡担保、債権譲渡と対抗要件具備時までに譲渡人に対して生じた事由、不法行為に基づく損害賠償請求の賠償額の範囲、未成年を理由とする責任無能力、被害者側の過失、被害者の疾患を理由とする損害額の減殺の可否、近親者の慰謝料請求、親権者の不法行為責任

・2021 年度…時効取得と第三者(被相続人の占有及びそれを相続した者の占有)、委託保証人の求償権、詐害行為取消権(対受益者、対転得者)及びそれによる権利の具体的実現

2問出題される。全範囲からバランスよく出題されているため、どこかの分野に穴があると周りの受験生に書き負ける可能性がある。

範囲が広いといっても基本的には財産法分野が頻出なので優先して基本事項を確認したい。
出題論点は判例百選に掲載された判例をベースにしたものがほとんどである。
百選判例は優先しておさえたい。百選判例と言ってもややニッチな判例が出題されることもあるので、他の科目に比べると百選判例を網羅的におさえる必要性が高い。
一番配点がある科目ではあるので優先順位も一番高いといえる。

また、要求される記述量が非常に多い問題が2問のうち1問出題されることが多く、各論点で論証を展開している暇はない。論証パターンを用意するのみの準備ではなく、時間がない中で何を書くべきで、何を書くべきでないか、臨機応変に対応するための準備までしておくべきだろう。

民事訴訟法

・2024 年度…一部請求後の残部請求の可否、一部請求と過失相殺

・2023 年度…訴訟物の個数(不法行為によって生じた人的損害の賠償請求)、弁論主義第1テーゼ、評価的要件の主要事実、釈明

・2022 年度…遮断効(通謀虚偽表示の抗弁、解除の抗弁)

・2021 年度…相殺の抗弁の適法性(142 条類推適用の可否)

短めの事例が提示され、設問が数個用意されている出題がほとんどである。
出題論点は判例百選に掲載されている判例をベースにしたものが多い。

判例の中でもとりわけ重要といわれているものに出題が集中しているので、基本知識について定義や趣旨をしっかり理解することを目標に、短文事例問題を用いた演習をし、具体的なイメージを伴ったインプットを心がけてほしい。

刑法

・2024 年度…窃盗罪における不法領得の意思、事後強盗罪の成否、公務の業務性、共犯関係の解消

・2023 年度…事後強盗罪の成否(窃盗の実行の着手、「暴行」(238 条)該当性)、傷害致死罪の成否(因果関係、正当防衛の成否)

・2022 年度…業務上横領罪の成否(不動産取引の相手方の共同正犯の成否、横領後の横領、身分犯と共犯)、現在建造物放火の成否(建造物の一体性)

・2021 年度…強盗致傷罪の成否(ひったくり事案)、正当防衛の成否、正当防衛行為が第三者に及んだ場合(いわゆる誤想防衛の一種として故意が阻却されるか)、公務執行妨害罪の成否

長めの事例が提示され、複数人の行為について複数の犯罪の成否を問う問題がほとんどである。
例年、要求される記述量が多いので、全ての事項について詳細な検討をしている暇はない。
論証の暗記に走るのではなく、構成要件や違法性阻却事 由、責任阻却事由(主に責任故意)の要件の解釈(定義・規範)をしっかり再現できるような準備が望ましい。

犯罪成立を阻却する事由は頻出なので、何が問われても対応できるよう準備しておきたい。
検討を要求される構成要件は財産犯が頻出なので優先してもらいたいが、社会的法益に関する罪や国家的法益に関する罪からの出題も散見されるので注意が必要である。

刑事訴訟法

・2024 年度…強制処分該当性、リモートアクセス

・2023 年度…所持品検査の限界

・2022 年度…司法警察活動と行政警察活動の相違点、訴因の特定の要件、伝聞法則

(弾劾証拠)

・2021 年度…伝聞法則(伝聞非伝聞の区別)

典型的な論点をシンプルに問う出題が多い傾向にある。出題分野は刑訴法全体ではあるが、かなり基本的な知識が問われる傾向にあるので、対策自体は困難ではないと思われる。

どの演習書にも載っている基本論点について対応できるように準備しておきたい。

憲法

・2024 年度…捜査機関による差押えと取材の自由、取材源の秘匿

・2023 年度…選挙権

・2022 年度…プライバシー侵害を理由とする、検索事業者が提供する前科情報が書き込まれたウェブサイトの URL 等の情報の削除請求

・2021 年度…営業の自由、損失補償

長めの事例が提示され、その事案に含まれる憲法上の問題点を検討させる出題。事例の下敷きになっている判例は基本的に判例百選掲載判例である。

基本的には人権分野からの出題となっているが、その範囲はやや広めな印象があるので、網羅的な対策が必要ではある。

網羅的といっても表現の自由や営業の自由等の頻出の分野だけに集中してはならないという趣旨であって、他の分野の出題でも問われていることは超基本的な知識であったりすることもあるので、優先順位をつけて取り組んでほしい。

どの演習書にも載っているような事案類型を中心に判例の理解を深める学習を心がけたい。

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この記事の著者 小林 達雄 講師

小林 達雄 講師

中央大学法科大学院修了後、平成29年に司法試験合格。

法律事務所での実務経験を活かし,司法試験・予備試験の指導においても,法律の知識だけではなく実務に通じる「分かりやすい説明・説得力ある文章」を心掛けた指導を行う。

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