ニュースなどで、「裁判官の罷免」という言葉を耳にしたことがある人も多いのではないでしょうか。裁判官が罷免されるのはどういう場合でしょうか？これまで罷免された人はいるのでしょうか？

このコラムでは裁判官の罷免に関する様々な疑問について、わかりやすく解説していきたいと思います。

裁判官の罷免とは？わかりやすく解説　

裁判官の罷免とは、裁判官の職を剥奪することをいいます。

裁判官であっても、国民の信頼を裏切るような行為をした場合には辞めさせることも必要です。

そこで、国会の弾劾裁判所による裁判官の弾劾裁判（憲法64条）や、心身の故障、最高裁判所裁判官国民審査（憲法78、79条）の場合に罷免事由等が限定された裁判官の弾劾制度が採用されています。

弾劾裁判所では、国会の参議院・衆議院の両議院から選ばれた各７名（合計14名）の国会議員が裁判員となり、弾劾裁判を行います。

※参考：裁判官弾劾裁判所公式サイト

裁判官が罷免になる条件・方法は？

罷免事由は、

1. 公の弾劾によるとき（憲法64条）
2. 心身の故障のために職務を行うことができないと裁判されたとき（憲法78条）
3. （最高裁判所裁判官のみ）国民審査において投票者の多数が罷免を可としたとき（憲法79条）の3つです。

2については、裁判官自身を守るためのもので、1・3は裁判官としてふさわしくないと判断される場合のものです。

https://www.dangai.go.jp/intro/intro2.html

公の弾劾によるとき

「公の弾劾によるとき」（憲法64条）については、国会に設置される弾劾裁判所で罷免される場合で、以下のような条件です。

• 職務上の義務に著しく違反し、または職務を甚だしく怠ったとき
• その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があったとき

弾劾の流れは、以下のとおりです。

1. 国会（衆議院及び参議院）の議員各10人の委員による裁判官訴追委員会からの訴追の申立て
2. 国会（衆議院及び参議院）の議員各7人の裁判員による「弾劾裁判所」で審理
3. 弾劾裁判所が「罷免すべき」と判断すれば、裁判官を罷免

※参考：裁判官弾劾手続の流れ　裁判官弾劾制度について　裁判官訴追委員会

心身の故障のために職務を行うことができないと裁判されたとき

この場合、本人が辞職を申し出たとしても、高等裁判所又は最高裁判所による裁判がされるまでは、辞職することができません（裁判官分限法1条、3条）。

高等裁判所における裁判は5人の裁判官の合議体で、最高裁判所における裁判は大法廷で裁判します（同法4条）。

国民審査において投票者の多数が罷免を可としたとき

最高裁判所裁判官国民審査は、既に任命されている最高裁判所の裁判官が、その職責にふさわしい者かどうかを国民が審査する解職の制度です（憲法79条2項、3項、最高裁判所裁判官国民審査法）。

最高裁判所裁判官は、任命後初めて行われる衆議院議員総選挙の際に国民の審査を受け、その後は審査から10年を経過した後に行われる衆議院総選挙の際に再審査を受け、その後も同様です。

衆議院議員の選挙権がある人は、最高裁判所裁判官国民審査の投票をすることができます。

最高裁判所裁判官国民審査は、衆議院議員総選挙の投票日に行われ、投票所で衆議院議員の小選挙区と比例代表の投票と併せて、最高裁判所裁判官国民審査の投票を行います。

対象となる裁判官の氏名が書かれた投票用紙に、辞めさせたい裁判官の氏名の上に「×」を記入し、辞めさせたい裁判官がいない場合には、そのまま投票箱に投票用紙を入れます。

「○」などの不要なことを書いてしまうと無効投票となってしまいますから注意が必要です。

投票所では、対象となる裁判官が担当した主な判決や略歴などが書かれた新聞が置かれており、それを確認した上で投票することができます。

「×」が記載された票が、何も記載されていない票の票数を超えた場合、その裁判官は罷免されます。
ただし、過去の最高裁判所裁判官国民審査で罷免された裁判官はいません。

※参考：総務省｜国民審査｜制度のポイントを知ろう！

裁判官で罷免された人は誰かいる？　

弾劾裁判で罷免された事例は、戦後8人のみです。2024年の岡口基一仙台高等裁判所判事が8人目となりました。

過去に弾劾された裁判官の弾劾理由は、

1. 逮捕・捜索差押えなど各種の令状にあらかじめ署名捺印した白紙令状を作成し、裁判所職員に渡しておいた
2. 調停当事者である申立人から800円相当の接待を受け、その後揉み消しを図った
3. 首相への偽電話録音テープを新聞記者に聞かせた
4. 担当事件の弁護士からゴルフセット一式と背広三つ揃い2着（時価18万円）を収賄した
5. 少女3人に児童買春した
6. 女性職員にストーカー行為をした
7. 電車内で女性のスカートの中を盗撮した
8. SNS上で裁判当事者に対し不適切な発言を繰り返した

という合計８件です。

過去に国民審査で罷免された裁判官はいません。

実際に、現在の国民審査の制度によって罷免される可能性はかなり低いとされており、制度に疑問を投げかける意見もあります。

その他は、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合のみ罷免されています。

なお、裁判官の任期は10年で、10年ごとに任期を更新するかどうか選択をします。

裁判官の定年は、最高裁判所が70歳、高等裁判所・地方裁判所・家庭裁判所が 65歳、簡易裁判所が 70歳です。

※参考：読売新聞

まとめ

• 「裁判官の罷免」には弾劾裁判・心身の故障・国民審査の3つのパターンがある
• 戦後の弾劾裁判による罷免はわずか8名のみ
• 国民審査で罷免された裁判官は過去に一人もいない
• 心身の故障による罷免は高裁・最高裁の判断が必要

裁判官は憲法により身分保障されていますが、「裁判官 罷免」の可能性は、重大な非行や心身の不調など特定の条件下に限定されています。