行政書士を目指している方の中には、「行政書士は補助金の申請代行ができるのか」「報酬はどの程度もらえるのか」といったことが気になる方もいるでしょう。

行政書士は、補助金申請書類の作成や申請代行を有償で行える職業です。

例えば、民間のコンサルティング会社やIT導入支援事業者といった、行政書士資格をもたない業者が対応する場合、有償での書類作成はできません。

当コラムでは、行政書士の補助金申請代行について解説します。報酬や業務の流れも解説しているため、ぜひ最後までチェックしてください。

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行政書士の補助金の申請代行とは?

そもそも補助金とは、国や自治体が事業を支援する目的で会社や個人に給付するお金のこと。貸付けではないため返済は不要です。

補助金を受給するためには審査をクリアする必要があり、落ちると要件を満たしていても補助金は受け取れません。

また、採択されても事業実施後の審査に通らなければ補助金は下りないため、事業主が業務と並行して手続きする場合はハードルが高いでしょう。

そして行政書士は、補助金申請に関して以下のような業務を行えます。

  • 事前のヒアリング
  • 申請書類作成
  • 申請代行
  • 補助金交付後のサポート

例えば、飲食店の経営者が店舗の改装資金のために小規模事業者持続化補助金の受給を希望する場合、行政書士はまず店舗の状況や改装計画をヒアリングし、補助金の審査基準に沿った事業計画書を作成します。

その後は行政書士が必要な書類を整理し申請を代行するため、依頼者は本業に集中できるうえ採択率を高められます。

行政書士は、まさに事業者の助けになる存在だといえるでしょう。

補助金と助成金の違い

国や自治体が支給する返済不要のお金には、補助金のほかに「助成金」と呼ばれるものもあります。

両者は似た制度ですが、以下のような違いがあります。

内容補助金助成金
主な管轄・経済産業省
・自治体 など
・厚生労働省
・自治体 など
支給額高額のケースが多い
※数百万円〜数億円
補助金より少ないことが多い
※数十万円〜100万円
支給の条件申請後の審査に通過すれば受給できるが予算や採択件数に限りがある審査は形式的で、要件をクリアすればほぼ支給される
業務独占資格行政書士社会保険労務士

要件さえクリアすればほぼ受給できる助成金とは異なり、補助金では入念な審査が行われます。

そのため「少しでも採択率を上げたい」と考え、行政書士への依頼を検討する事業主は少なくありません。

補助金の申請代行は行政書士の独占業務?

補助金の申請代行自体は、行政書士の独占業務ではありません。

例えば、民間のコンサルティング会社やIT導入支援事業者が本人の代わりに申請や書類の提出を行っても、そのこと自体は違法にはなりません。

ただし、行政書士と無資格者が扱える業務には以下のような違いがあります。

内容行政書士・行政書士法人無資格者
補助金に関する相談・指導(有償・無償)
申請書類作成(有償)×
申請書類作成(無償)
申請書類の添削(有償)相談の範囲内なら◯
申請書類の添削(無償)
【参照】新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表|総務省

行政書士や行政書士法人以外でも、相談や指導であれば有償で行えます。

しかし、申請書類の作成は無償でしか行えません。

有償での添削も相談の範囲内を超えては行えないため、補助金申請について全体的にサポートするなら行政書士資格が必須です。

2026年1月より補助金申請業務が変化!背景は?

2025年6月に行政書士法の改正法が成立し、2026年1月の施工より補助金申請業務に関するルールが大きく変化することになりました。(参考:「行政書士法の一部を改正する法律」の成立について

注目すべきは、補助金申請に必要な書類作成が行政書士の独占業務として明確に位置づけられた点。

これまでは無資格者が「コンサル料」などの名目で有償で補助金の申請代行を有償をする事例が多くありましたが、今後はいかなる名目でも報酬を得る場合は行政書士しか対応できないことになりました。

法改正の背景には、無資格者による補助金申請代行と、それに伴うトラブルの多発があります。

無資格の不動産業者やコンサルタントなどが「コンサル料」「サポート料」などの名目で業務を行った結果、書類の不備や申請内容の理解不足により、採択後にトラブルになる例が多かったのです。

依然として補助金に関する相談・支援は誰でもできますが、書類作成・提出に関しては行政書士の独占業務となります。今までグレーな業者に流れていた依頼が行政書士に集まる可能性が高まるでしょう。

行政書士の補助金申請業務の報酬は

日本行政書士連合会が公表する「令和2年度報酬額統計調査の結果」によると、行政書士の補助金申請代行の報酬は1万〜76万円、平均値は10万3,098円です。

補助金以外にも、よく取り扱われる業務には以下のものがあります。

申請内容平均値最大値最小値
建設業許可申請(個人・新規)知事12万458円34万6,500円2万円
宅地建物取引業者免許申請(新規)知事11万2,535円30万円3万円
農地法第3条許可申請4万9,587円77万円3,000円
自動車登録申請(新車新規)7,443円5万円1,480円
古物商許可申請5万3,585円44万円1万円

このように、料金設定は事務所によって大きく異なる場合があります。

報酬の高い行政書士の多くは、その分野に関して高い専門性をもっています。

例えば補助金申請なら実績を積み採択率を上げることで、高額でも「ぜひ依頼したい」という顧客が現れるでしょう。

報酬を高めるためには、あれもこれもと手を広げるのではなく分野を絞り、その分野のプロフェッショナルになることが大切です。

行政書士の補助金申請業務の流れ

行政書士の補助金申請業務の流れは以下のとおりです。

  1. 申請内容の確認
  2. 申請書の作成・提出
  3. 事務局による審査
  4. 補助事業の書類の管理
  5. 報告書の作成・提出
  6. 補助金の交付

1.申請内容の確認

まずは依頼者の事業内容や目的をヒアリングし、適している補助金の種類や要件を確認します。

必要書類やスケジュールについても、依頼者と共有します。

2.申請書の作成・提出

ヒアリングした内容をもとに申請書や事業計画書を作成し、期限内に提出します。

必要書類や提出先は補助金ごとに異なるため、その都度確認が必要です。

また、期限も厳守しなければなりません。

補助金ごとに提出期限があり、原則として1日でも過ぎると受け付けてもらえなくなります。

3.事務局による審査

提出した申請書類は事務局が審査します。

審査では書類の不備はもちろん、事業計画が実現可能か、計画が補助金の趣旨と合致しているかといったところも見られます。

修正や確認、追加資料の提出など、事務局から求められれば対応が必要です。

4.補助事業の書類の管理

採択されても、そこで終わりではありません。

補助事業が実施されている間、行政書士は領収書や契約書などの証拠書類を事業主から預かり、適切に管理します。

また、事業計画に変更が生じたときは、変更申請書を提出します。

そのままにしておくと補助金を受給できなくなるおそれがあるため、計画に変更が生じたら、すぐに連絡をもらえるようにしておく必要があるでしょう。

5.報告書の作成・提出

事業が終了したら実施内容や経費を報告書にまとめ、証拠書類とあわせて事務局に提出します。

事業実施後の審査が行われ、通過すればようやく補助金が支給されます。

6.補助金の交付

事業実施後の審査に通ると交付が確定し、指定した口座に補助金が入金されます。

しかし、ここでもまだ終わりではありません。

事業結果を報告しなければならないため、行政書士は報告についてもサポートします。

行政書士が扱う補助金の具体例

行政書士が扱う補助金には、以下のようなものがあります。

  • IT導入補助金
  • ものづくり補助金
  • 小規模事業者持続化補助金
  • 中小企業新事業進出促進事業(新事業進出補助金)
  • 自治体が実施する「起業支援金」「創業補助金」など

各補助金の概要・対象者などについて解説します。

IT導入補助金

IT導入補助金とは、ソフトウェア、ITツールなどを導入するための費用を補助する制度です。

通常枠の補助額や対象者は以下のとおりです。

補助額・通常枠:5万〜450万円
・インボイス枠(インボイス対応類型):5万〜350万円
・インボイス枠(電子取引類型):5〜50万円
・セキュリティ対策推進枠:5万〜100万円
・複数社連携IT導入枠:5万〜2,000万円
※補助率は2分の1以内または3分の2以内
対象者中小企業・小規模事業者など
【参照】IT導入補助金2025|独立行政法人中小企業基盤整備機構

ものづくり補助金

ものづくり補助金とは、新製品やサービスの開発、設備投資に取り組む際にかかる費用を支援するための補助金です。

補助額や対象者は以下のとおりです。

補助額(上限)・製品・サービス高付加価値化枠:750万〜2,500万円
・グローバル枠:3,000万円
※下限は100万円※補助率は2分の1〜3分の2
対象者中小企業・小規模事業者など
【参照】ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金|全国中小企業団体中央会

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助金とは、小規模事業者が販路開拓や業務効率化を目的として行う事業を支援する制度です。

補助額や対象者は以下のとおりです。

補助額(上限)・一般型(通常枠):50万円(通常枠)
・創業型:200万円
・共同・協業型:5,000万円
・ビジネスコミュニティ型:50万円または100万円
※補助率は3分の2(共同・協業型は一部定額)
※+50万円のインボイス特例あり
対象者常時使用する従業員が以下の人数より少ない小規模事業者
・商業・サービス業:5人以下
・サービス業のうち宿泊業
・娯楽業:20人以下
・製造業など:20人以下

詳細は、それぞれの公募要項をご確認ください。

中小企業新事業進出補助金

中小企業新事業進出補助金とは、新たな市場への進出を目指す中小企業の設備投資・経費を支援するための補助金です。

「事業再構築補助金」の後継制度として、2025年4月からスタートしました。

補助額や対象者は以下のとおりです。

補助額(上限)2,500万円(3,000万円)〜7,000万円(9,000万円)
※下限は750万円
※カッコ内は特例適用後の上限額
対象者企業の成長・拡大に向け新規事業に挑戦する中小企業など

【参照】中小企業新事業進出補助金|独立行政法人中小企業基盤整備機構

自治体が実施する「起業支援金」「創業補助金」など

各自治体でも、さまざまな補助金が実施されています。

例えば、以下のような補助金があります。

  • 東京都:創業助成金
  • 大阪府:大阪起業家グローイングアップ補助金
  • 福岡県福岡市:福岡市新規創業促進補助金
  • 千葉県茂原市:茂原市創業支援補助金
  • 兵庫県姫路市:まちなか・商店街創業支援事業補助金

ほかにも、各都道府県や市区町村で独自の補助金制度が実施されています。

詳細は、起業予定地の自治体に確認してください。

行政書士に補助金申請の依頼がくる理由

行政書士に補助金申請の依頼がくる理由は以下の2つです。

  • 補助金の採択率が上がるから
  • 事務局とのやり取りを任せられるから

補助金の採択率が上がるから

行政書士に補助金申請の依頼がくる理由のひとつは、採択率が上がるためです。

補助金の申請書類は、ただ作成すればよいというものではありません。

「審査に通るための書類」を作成するスキルが必要です。

書類作成の専門家である行政書士なら、審査で何が求められているかを理解し、補助金の趣旨に合った書類を作成できるでしょう。

事務局とのやり取りを任せられるから

事務局とのやり取りを一任できるところも、行政書士に依頼がくる理由のひとつです。

申請後、事務局から申請内容について確認の連絡が入ったり、修正を求められたりすることがあります。

行政書士以外の業者では事務局とのやり取りに対応できないため、行政書士に依頼しなかった場合、事業主は業務を行いながら事務局とのやり取りも行わなければなりません。

行政書士に対応を任せれば事業主は業務に専念でき、手続きもスムーズに進むでしょう。

行政書士が補助金を取り扱うときの注意点

行政書士が補助金を取り扱うときは、以下の点に注意する必要があります。

  • 助成金を取り扱うと違法になる
  • ダブルライセンスの取得がおすすめ
  • 補助金は必ず受け取れるわけではないと伝える

厚生労働省が管轄する補助金・助成金を取り扱うと違法になる

厚生労働省が実施する補助金・助成金に行政書士が対応してしまうと、違法になるため注意が必要です。

補助金・助成金のうち、厚生労働省が実施しているものに関しては社会保険労務士の独占業務になるためです。

「行政書士が扱う補助金の具体例」でも解説したとおり、行政書士は多くの補助金申請に対応できます。

しかし厚生労働省が実施しているものに関しては、補助金・助成金ともに申請代行ができないことを念頭に置いておきましょう。

厚生労働省が管轄する補助金・助成金には、例えば以下のものがあります。

  • 高度安全機械等導入支援補助金
  • エイジフレンドリー補助金
  • 個人ばく露測定定着促進補助金
  • 雇用調整助成金
  • 人材開発支援助成金

経済産業省や環境省、各自治体が実施している助成金なら、行政書士でも扱えます。

しかし助成金の多くは厚生労働省が管轄しているため、行政書士が対応できる案件は限られているといえるでしょう。

ダブルライセンスの取得がおすすめ

補助金業務を専門分野にしたいなら、ダブルライセンスの取得がおすすめです。

行政書士のほかに以下の資格を取得すれば、補助金業務を行ううえでさらに幅が広がるでしょう。

  • 中小企業診断士
  • 社会保険労務士

中小企業診断士は、国に認定された経営コンサルタントの国家資格です。

経営改善や事業計画の作成を専門としているため、補助金業務を行ううえでプラスになるでしょう。

そして社会保険労務士は、労働や社会保険に関する相談・手続きを専門とする国家資格です。

社会保険労務士の資格があれば、厚生労働省が管轄する補助金・助成金も扱えるようになります。

補助金は必ず受け取れるわけではないと伝える

補助金は必ず受け取れるわけではない旨を、顧客に伝えておくことが重要です。

いくら行政書士が対応しても、必ず採択されるとは限りません。

申請内容が補助金の趣旨に合っていなかったり、事業計画に実現性がなかったりすると、審査に落ちる場合があります。

採択されない可能性がある点を事前に伝えておかなければ、顧客は「行政書士に依頼したから採択される」と思い込んでしまいます。

不採択になったときにトラブルに発展しかねないため、しっかりと説明をして理解を得ておく必要があるでしょう。

まとめ

行政書士の補助金申請代行について解説しました。

  • 補助金は助成金より審査が厳しい
  • 有償での書類作成は行政書士のみ
  • 申請代行の報酬は1万〜76万円
  • 厚生労働省管轄の案件は扱えない
  • 補助金は採択されるとは限らない

行政書士は、補助金の書類作成や申請代行を有償で行える専門家です。

ただし、厚生労働省が実施している補助金・助成金を扱ってしまうと違法になるため、補助金業務を行うのであれば、補助金・助成金の管轄を把握する必要があります。

業務の幅を広げるために、ダブルライセンスの取得を目指してもよいでしょう。

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