労働安全衛生法により、一定規模以上の事業場では安全管理者や衛生管理者の選任が義務付けられています。しかし、「安全管理者と衛生管理者の違いがよく分からない」という声をよく耳にします。

両者は名前が似ているものの、管理する対象や資格取得方法、選任要件などに大きな違いがあります。この記事では、安全管理者と衛生管理者の違いを詳しく解説し、どちらの資格を目指すべきか判断できるよう比較表も交えて説明していきます。

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安全管理者と衛生管理者の違い【結論まとめ】

安全管理者と衛生管理者の主要な違いを比較表でまとめました。

項目安全管理者衛生管理者
管理対象労働災害・事故の防止(安全)労働者の健康管理(衛生)
選任義務のある業種特定の20業種のみ全ての業種
必要な事業場規模常時50人以上常時50人以上
資格取得方法研修受講(9時間)国家試験合格
資格の種類1種類のみ第一種・第二種・衛生工学
合格率・難易度ほぼ100%(研修のため)約45〜50%(試験のため)
受験資格学歴・実務経験が必要学歴・実務経験が必要
専任義務一定規模以上で専任必要一定規模以上で専任必要

安全管理者と衛生管理者の基本的な違い

管理対象の違い

安全管理者は、労働災害や事故から従業員を守ることが主な役割です。具体的には、機械設備の安全装置の点検、危険な作業方法の改善、安全教育の実施などを担当します。

衛生管理者は、従業員の健康を害する要因を排除することが主な役割です。職場環境の衛生管理、健康診断の実施、ストレスチェックの対応、労働者の健康相談などを担当します。

法的根拠と選任義務の違い

両者とも労働安全衛生法に基づいて選任が義務付けられていますが、対象となる事業場に違いがあります。

安全管理者は、労働安全衛生法第11条により、特定の業種かつ常時50人以上の労働者を使用する事業場で選任が必要です。

衛生管理者は、労働安全衛生法第12条により、業種を問わず常時50人以上の労働者を使用する全ての事業場で選任が必要です。

対象業種の違い

安全管理者の選任が必要な業種は以下の20業種に限定されます。

  • 林業
  • 鉱業
  • 建設業
  • 運送業
  • 清掃業
  • 製造業(物の加工業を含む)
  • 電気業
  • ガス業
  • 熱供給業
  • 水道業
  • 通信業
  • 各種商品卸売業
  • 家具・建具・じゅう器等卸売業
  • 各種商品小売業
  • 家具・建具・じゅう器小売業
  • 燃料小売業
  • 旅館業
  • ゴルフ場業
  • 自動車整備業
  • 機械修理業

衛生管理者は、業種に関係なく常時50人以上の労働者を使用する全ての事業場で選任が必要です。金融業、サービス業、情報通信業なども含まれます。

資格取得方法の違い

安全管理者と衛生管理者で資格取得方法は下記の違いがあります。

安全管理者衛生管理者
学歴・実務経験・大学・高等専門学校(理科系統)卒業+産業安全実務2年以上
・高等学校(理科系統)卒業+産業安全実務4年以上
・大学・高等専門学校(理科系統以外)卒業+産業安全実務4年以上
・高等学校(理科系統以外)卒業+産業安全実務7年以上
・その他の学歴+産業安全実務7年以上
・大学・短大・高専卒業+労働衛生実務1年以上
・高等学校卒業+労働衛生実務3年以上
・労働衛生実務経験10年以上(学歴不問)
研修内容・安全管理概論:1時間
・安全行政概論:1時間
・労働安全衛生マネジメントシステム:2時間
・安全管理技法:3時間
・危険性・有害性等の調査等の手法:2時間
「労働安全衛生関係法令」「労働衛生」「労働生理」
受講方法研修は全国各地の指定機関で実施されています。最寄りの都道府県労働局で実施機関を確認できます。全国の安全衛生技術センターで毎月複数回実施されています。
費用と期間・研修費用:約10,000〜15,000円(実施機関により異なる)
・研修期間:1日(9時間)
・合格率:ほぼ100%(研修修了により資格取得)
・受験手数料:8,800円
・勉強期間:3〜6ヶ月程度
・参考書・問題集:3,000〜5,000円程度
・通信講座:20,000〜50,000円程度

安全管理者とは?基本概要と選任要件

安全管理者の定義と役割

安全管理者は、労働安全衛生法で定められた事業場の安全を管理する管理者です。総括安全衛生管理者の指揮の下、安全に関する技術的事項を管理し、労働災害の防止に努めます。

安全管理者の主な目的は、従業員を身体的な危険から守り、安全に働ける環境を整備することです。機械設備による事故、転落・墜落事故、火災・爆発事故などの労働災害を未然に防ぐための措置を講じます。

安全管理者の選任が必要な業種

前述した20業種のうち、常時50人以上の労働者を使用する事業場では、安全管理者の選任が義務付けられています。これらの業種は、一般的に労働災害のリスクが高いとされる業種です。

建設業や製造業、運送業などは特に労働災害が発生しやすく、安全管理者による専門的な安全管理が求められます。

安全管理者の選任要件・人数

安全管理者の選任要件は以下の通りです。

選任できる者

  1. 労働安全コンサルタント
  2. 以下のいずれかに該当し、厚生労働大臣が定める研修を修了した者
    • 大学・高等専門学校で理科系統の課程を修了し、2年以上の産業安全実務経験
    • 高等学校で理科系統の学科を修了し、4年以上の産業安全実務経験
    • その他厚生労働省令で定める者

選任人数

  • 常時50人以上の事業場:1人以上
  • 一定の業種・規模では専任の安全管理者が必要

専任が必要な事業場 以下の条件を満たす事業場では、安全管理者のうち1人を専任とする必要があります。

  • 常時300人以上を使用する建設業・製造業・運送業・清掃業
  • 常時1,000人以上を使用するその他の業種

安全管理者の業務内容

安全管理者が行うべき業務は、労働安全衛生法により以下のように定められています。

  1. 建設物、設備、作業場所、作業方法に危険がある場合の応急措置・防止措置
  2. 安全装置、保護具など危険防止設備・器具の定期点検・整備
  3. 作業の安全に関する教育・訓練
  4. 労働災害の原因調査・再発防止対策
  5. 安全統計の作成
  6. 安全巡視の実施
  7. 他の事業者との連絡調整
  8. その他安全に関する事項

特に重要なのは、作業場等の巡視です。設備や作業方法に危険のおそれがあるときは、直ちに危険を防止するための必要な措置を講じる必要があります。

衛生管理者とは?基本概要と選任要件

衛生管理者の定義と役割

衛生管理者は、労働安全衛生法に基づく労働環境の改善、労働者の健康保持など、職場の衛生全般を管理する管理者です。

労働者の健康障害を防止するため、作業環境管理、作業管理、健康管理の3つの視点から職場の衛生管理を行います。近年では、メンタルヘルス対策やストレスチェックの実施など、心の健康管理も重要な業務となっています。

衛生管理者の選任が必要な業種

衛生管理者は、業種に関係なく常時50人以上の労働者を使用する全ての事業場で選任が必要です。安全管理者とは異なり、オフィスワーク中心の金融業や情報通信業、サービス業なども対象となります。

ただし、有害業務を含む事業場では、第二種衛生管理者免許のみの保有者は選任できず、第一種衛生管理者免許・衛生工学衛生管理者免許・医師・歯科医師・労働衛生コンサルタントから選任する必要があります。

衛生管理者の選任要件・人数

選任できる者

  1. 第一種衛生管理者免許保有者
  2. 第二種衛生管理者免許保有者(有害業務のない事業場のみ)
  3. 衛生工学衛生管理者免許保有者
  4. 医師
  5. 歯科医師
  6. 労働衛生コンサルタント
  7. その他厚生労働大臣が定める者

選任人数 事業場の労働者数に応じて選任人数が決まります。

  • 50人以上200人以下:1人以上
  • 200人を超え500人以下:2人以上
  • 500人を超え1,000人以下:3人以上
  • 1,000人を超え2,000人以下:4人以上
  • 2,000人を超え3,000人以下:5人以上
  • 3,000人を超える場合:6人以上

専任が必要な事業場 以下の条件を満たす事業場では、衛生管理者のうち1人を専任とする必要があります。

  • 常時500人以上を使用し、坑内労働または有害業務に常時30人以上従事させる事業場

衛生管理者の業務内容

衛生管理者の主な業務は以下の通りです。

  1. 健康に異常のある者の発見および処置
  2. 作業環境の衛生上の調査
  3. 作業条件、施設等の衛生上の改善
  4. 労働衛生保護具、救急用具等の点検および整備
  5. 衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
  6. 労働者の負傷および疾病、それらの原因の調査および再発防止対策
  7. 衛生日誌の記録など衛生管理の記録・整備

特に重要なのは、少なくとも毎週1回の職場巡視です。設備、作業方法、衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに労働者の健康障害を防止するため必要な措置を実施します。

安全管理者と衛生管理者の兼任は可能?

兼任の法的可否

結論:法律上、安全管理者と衛生管理者の兼任は可能です。

労働安全衛生法では、常時使用する労働者が50人以上という要件のみを満たしている場合、安全管理者と衛生管理者を専任する義務はありません。そのため、両方の資格要件を満たしていれば、一人で安全管理者と衛生管理者を兼任することが認められています。

兼任する場合のメリット・デメリット

メリット

  1. 人件費の削減:一人で両方の役割を担うため、人件費を抑えられる
  2. 総合的な管理:安全と衛生を一体的に管理できる
  3. 情報共有の効率化:一人が両方の情報を把握しているため、連携がスムーズ

デメリット

  1. 業務負担の増大:安全面と衛生面の両方を管理するため、業務量が大幅に増加
  2. 専門性の希薄化:それぞれの分野への集中度が下がる可能性
  3. 責任の重さ:両方の責任を一人で負うことになる

兼任時の注意点

兼任する場合は以下の点に注意が必要です。

  1. 業務量の適正化:一人で両方の業務を適切に遂行できるか検討
  2. 専門知識の継続的な習得:安全と衛生両分野の最新知識の習得
  3. サポート体制の構築:兼任者をサポートする体制の整備
  4. 代替要員の確保:兼任者が不在時の代替要員の確保

事業場の規模や業務の複雑さによっては、兼任よりも専任の方が適している場合もあります。

安全管理者と衛生管理者どっちを目指すべき?

業種別の必要性

製造業・建設業・運送業などの場合

  • 安全管理者:選任義務あり
  • 衛生管理者:選任義務あり
  • 推奨:両方とも需要が高いが、労働災害リスクを考慮すると安全管理者の重要性が高い

金融業・情報通信業・サービス業などの場合

  • 安全管理者:選任義務なし
  • 衛生管理者:選任義務あり
  • 推奨:衛生管理者一択(メンタルヘルス対策の重要性が高い)

キャリアアップの観点から

安全管理者のメリット

  • 研修のみで資格取得可能(取得しやすい)
  • 製造業や建設業で重宝される
  • 労働安全コンサルタントへのステップアップも可能

衛生管理者のメリット

  • 全業種で需要がある(汎用性が高い)
  • 国家資格としての信頼性が高い
  • 健康経営の推進で需要が拡大中

資格取得の難易度から

取得しやすさ

  1. 安全管理者:研修受講のみ(実質的な合格率100%)
  2. 第二種衛生管理者:合格率約50%
  3. 第一種衛生管理者:合格率約45%

時間と労力を考慮すると、安全管理者の方が取得しやすいといえます。ただし、受験資格として必要な実務経験の確保が重要になります。

転職・就職での優位性

求人数の多さ

  1. 衛生管理者:全業種で需要があるため求人数が多い
  2. 安全管理者:特定業種のみだが、該当業種では必須の資格

年収・待遇面 両資格とも同程度の待遇が期待できますが、事業場の規模や業種によって大きく異なります。一般的に、専任が求められる大規模事業場ほど待遇が良い傾向にあります。

安全衛生推進者との違いも解説

安全衛生推進者とは

安全衛生推進者は、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場で選任が必要な管理者です。安全管理者や衛生管理者よりも小規模な事業場を対象としています。

安全衛生推進者は、安全管理者と衛生管理者の両方の役割を担い、安全衛生に関する業務を総合的に管理します。

50人未満の事業場での選任要件

選任義務のある事業場

  • 常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場

選任できる者 特別な資格は不要ですが、以下のような者が望ましいとされています。

  • 安全衛生に関する知識・経験を有する者
  • 安全衛生に関する研修を受講した者

主な業務

  1. 安全衛生に関する業務の統括管理
  2. 労働災害防止対策の実施
  3. 安全衛生教育の実施
  4. 健康診断の実施等

よくある質問(FAQ)

安全管理者と衛生管理者の人数は何人必要?

安全管理者

  • 基本:常時50人以上で1人以上
  • 専任:特定の業種・規模で1人を専任

衛生管理者

  • 50〜200人:1人以上
  • 200〜500人:2人以上
  • 500〜1,000人:3人以上
  • 1,000〜2,000人:4人以上
  • 2,000〜3,000人:5人以上
  • 3,000人以上:6人以上

安全管理者と衛生管理者の給与・年収は?

年収は事業場の規模や地域、経験年数によって大きく異なりますが、一般的な目安は以下の通りです。

  • 安全管理者:年収400〜700万円
  • 衛生管理者:年収400〜700万円
  • 専任の場合:年収500〜800万円

資格手当として月額5,000〜20,000円程度が支給される場合もあります。

総括安全衛生管理者との関係は?

総括安全衛生管理者は、安全管理者と衛生管理者を指揮し、事業場の安全衛生業務を統括管理する最高責任者です。

選任要件

  • 常時100人以上の労働者を使用する特定事業場
  • 事業場を実質的に統括管理する者(工場長、所長など)

関係性 総括安全衛生管理者 → 安全管理者・衛生管理者 → 一般労働者

産業医との違いは?

産業医

  • 医師の資格が必要
  • 労働者の健康管理を医学的観点から担当
  • 常時50人以上で選任義務(ただし1,000人未満は嘱託可)

衛生管理者との違い

  • 産業医:医学的専門性に特化
  • 衛生管理者:職場環境の衛生管理全般

両者は連携して労働者の健康を守る関係にあります。

まとめ:安全管理者と衛生管理者の違いを理解して適切な資格取得を

安全管理者と衛生管理者は、労働者の安全と健康を守るという共通の目的を持ちながらも、管理する対象や資格取得方法に大きな違いがあります。

安全管理者は労働災害防止に特化し、特定の20業種で選任が必要です。研修受講のみで資格取得でき、製造業や建設業などでの需要が高いのが特徴です。

衛生管理者は労働者の健康管理全般を担当し、全業種で選任が必要です。国家試験の合格が必要ですが、汎用性が高く、メンタルヘルス対策の重要性が高まる現代において需要が拡大しています。

どちらの資格を目指すかは、所属する業種、キャリアプラン、取得しやすさなどを総合的に考慮して決定することが重要です。可能であれば両方の資格を取得することで、労働安全衛生分野での専門性をより高めることができるでしょう。

労働者の安全と健康を守る重要な役割を担う安全管理者・衛生管理者として、適切な知識と技能を身につけ、職場の安全衛生水準の向上に貢献していただければと思います。

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