今回は、日本栄養大学栄養学部で副学長・教授を務めておられる川端輝江先生へインタビューを行いました。

脂肪酸研究をはじめとする栄養学の魅力や、日本栄養大学での学びについてお話しいただいています。

先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?

高校生の頃は料理を作ることが好きで、料理本などで活躍する料理家に憧れていました。

一方で理科系の科目も好きだったため、医学や薬学にも興味を持っていました。

大学選びをしていた時に、日本栄養大学の創立者である香川綾先生の「病気になってからでは遅い。これからは予防医学の時代だ」という言葉に出会い、とても強く共感したことを覚えています。

食事を通して健康を支えるという考え方は、料理への興味と科学への興味の両方を満たしてくれるものでした。

それが、私が栄養学の道に進む大きなきっかけとなりました。

研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?

日本栄養大学(当時の女子栄養大学)の4年生のころ、将来は母校で栄養学を教える大学教員になりたいと考えていました。

卒業後は母校で実験実習助手として勤務し、教育に携わる一方で、研究室の研究活動にも参加していました。

研究に関わる中で強く感じたのは、自分の知識や能力の不足でした。

実験によってさまざまな結果や現象が得られても、その意味を正しく解釈し、学術的な根拠に基づいて説明することができなかったのです。

そこで一度仕事を離れ、大学院に進学して研究を基礎から学び直しました。

大学院では、研究結果を客観的な証拠として積み上げていくことの難しさと面白さを学びました。

この経験が私にとって大きな転機となり、「なぜそうなるのか」を科学的に解き明かす研究の面白さに魅了されました。

以来、教育と研究の両方に携わりながら、栄養学の発展と次世代の人材育成に取り組んでいます。

現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?

私が主に研究しているのは、リノール酸やオレイン酸に代表される「脂肪酸」と呼ばれる成分です。

脂肪酸は、私たちが普段食べている魚や肉、植物油などに含まれる脂質の主要な構成成分で、多くの種類があります。

そして、その種類によって体の中での働きが異なることが知られています。

例えば、ある脂肪酸は健康の維持に役立つ一方で、別の脂肪酸は摂り過ぎると生活習慣病のリスクと関係することがあります。

私は、食事によって摂取した脂肪酸が体の中でどのように利用され、健康状態にどのような影響を及ぼすのかを、血液検査などを通じて調べています。

特に最近では、将来の世代の健康にも大きく関わる妊娠女性や若年女性を対象に、脂肪酸の栄養状態が女性や子どもの健康にどのような影響を及ぼすのかを明らかにする研究に力を入れています。

その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?

脂肪酸は私たちが毎日食べる食品に含まれている、とても身近な栄養素です。

例えば、健康に良いとされるEPAやDHAは主に魚に多く含まれています。

しかし「魚は健康によい」と言われても、実際には年齢や性別、生活習慣、遺伝的な体質、さらには妊娠の有無などによって、必要な量や期待される効果は異なります。

私たちの研究は「どのような人が、どのような食品を、どのくらい食べるとよいのか」を科学的に明らかにし、「何を食べれば健康に暮らせるのか」という多くの人が抱く疑問に答えることを目指しています。

また、こうした知見は、一人ひとりの健康づくりに役立つだけでなく、次世代の健康維持や持続可能な食環境を考える上でも重要です。

研究成果は、国の食事摂取基準や健康づくりの指針にも活用され、私たちが毎日の食事を選ぶ際の科学的な根拠となっています。

研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?

研究の魅力は、新しい発見によって私たちの常識が更新されることです。

近年の栄養学では、単に遺伝だけが健康を決めるのではなく、食事や生活習慣が遺伝子の働きに影響を与えることがわかってきました。

私自身も妊娠期の脂質栄養に関する研究を行っていますが、母親の栄養状態が将来生まれてくる子どもの健康にも影響する可能性が示されています。

こうした知見に触れるたびに、栄養学には人の一生だけでなく次世代にも関わる大きな力があることを実感します。

研究を通じて新たな知識を社会に届けられることに、大きなやりがいを感じています。

貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。

日本栄養大学では、「食」と「健康」について基礎から応用、そして実践まで幅広く学ぶことができます。

栄養学はもちろん、調理学、食品学、公衆衛生学、臨床栄養学など、さまざまな分野を横断的に学べることが大きな特徴です。

また、食事の文化的背景や料理の魅せ方、写真の撮り方、食に関する情報発信方法など、「健康的に食べる」だけでなく、「食の楽しさを伝える」ことについても学ぶ機会があります。

食を通して人々の健康と幸せに貢献したいと考える学生にとって、幅広い知識と視点を身につけられることが日本栄養大学の魅力だと思います。

私自身、食には人々の健康だけでなく、人生を豊かにする力があると考えています。

その魅力を学びたい、そして将来は食を通して社会に貢献したいという高校生に、ぜひ日本栄養大学で学んでほしいと思います。

先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?

私が学生に最も大切にしてほしいのは、自分自身の興味や関心を持ち、それを深く探究することです。

栄養学は非常に幅広い学問であり、全員が同じ方向を目指す必要はありません。

一人ひとりが自分らしい専門性を見つけてほしいと思っています。

また、これからの社会ではAIが多くの課題を解決してくれるようになるかもしれません。

しかし、新しい課題を発見する力は人間にしかありません。

そのため、授業やゼミでは知識を覚えるだけでなく「なぜだろう」と考え、疑問を持つ姿勢を養うことを重視しています。

貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?

日本栄養大学の学生は、全体的に真面目で誠実な学生が多いと感じています。

栄養学は人々の健康や生活と直接関わる実学ですので、将来の目標をしっかり持ちながら学んでいる学生が多いことも特徴です。

授業や実習にも積極的に取り組み、互いに協力しながら成長しようとする雰囲気があります。

また、管理栄養士をはじめとする専門職を目指す学生が多いため、人の役に立ちたいという思いを持った方々が数多く集まっています。

そのような前向きな環境の中で学べることは、日本栄養大学の大きな魅力の一つだと思います。

貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?

まずは「食」に興味を持つことが一番大切だと思います。

特別な勉強をする必要はありません。

毎日の食事や家族との食卓を通じて、「なぜこの食品を食べるのだろう」「健康との関係はどうなっているのだろう」と考える習慣を持ってください。

また、自分自身の体調や生活習慣にも目を向けてみてください。

栄養学は教科書の中だけにある学問ではなく、自分自身の生活そのものが学びの対象になります。

日々の食生活を観察しながら過ごすことが、大学での学びにつながる第一歩になると思います。

進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。

私自身、若い時期に栄養学を学ぶことができて本当に良かったと感じています。

食事や健康に関する正しい知識を身につけたことで、必要以上に不安になることなく、自分らしく生活できるようになりました。

また、食は人が生きる限り決してなくなることのない営みです。

未来には食べ物や食べ方が変わるかもしれませんが、食に関わる仕事や研究の重要性が失われることはないでしょう。

もし健康や食に少しでも興味があるなら、ぜひ栄養学という学問に触れてみてください。

皆さんの未来を支える大きな学びになるはずです。