今回は、東京都立大学大学院ファイナンスプログラムの教授を務めておられる吉羽要直先生へインタビューを行いました。

取り組んでおられる研究テーマや学部に在籍する学生の特徴・雰囲気などをお話しいただいています。

先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?

大学に入学したときは理系でしたが、大学1年の教養課程のときにミクロ経済学の講義を受け、人々は予算などの制約のもとで効用を最大化するように行動し、その結果として価格と需要が決まると習い、そうした考え方に共感するとともに、用いられる数学的な技法に強い関心を持ちました。

対象としては多くの人に影響を及ぼす経済や金融への興味が強かったのですが、当時の金融実務では数理的な考え方に沿って合理的に分析を進めることは根付いていないような印象を持ったので、大学では経済・金融での分析に役立つ数学を学ぶことに焦点を当てて、専門課程に進学しました。学部では卒業論文で、資産収益率の分布などがよく用いられる正規分布には従わないことに注目して、非正規分布の推測論をまとめましたが、それだけでは金融・経済の実務での数理的な分析には足りないと考えて、大学院の修士課程まで進学しました。

研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。

研究者を目指したのは大学院への進学を考えた頃です。

しかしながら、工学系の大学院で応用数学の研究を進めていく中で、学界の先生方が問題の数学的な美しさや解きやすさに着目することが多く、もどかしさを感じました。つまり、経済・金融で数理的な問題として解決すべき問題は多いはずなのに、そうした実務での問題には着目することなく、応用数学という学問の中だけで閉じてしまっていると感じました。自分は経済・金融で生じている問題を見つけ、それを解決する方向で貢献したいと考えました。ですので、大学院の修士課程を修了したら、金融機関に就職して研究を続けたいと考えていました。

就職に際しては、運よく、日本経済全体に関する問題に取り組めそうな日本銀行に就職できました。そこで30年間、研究や啓蒙活動を中心に取り組みました。

教育者を志したのは40歳代になってからです。日本銀行の中で中間管理職としてスタッフの研究の指導に当たるようになって、将来的には大学教員になって、自分がこれまで金融・経済の問題を数理的な問題として定式化して分析してきたようなことを学生の興味に沿って指導していきたいと考えるようになりました。幸いにも日本銀行での研究を通じて学術論文もそれなりに執筆できましたので、論文で博士(統計科学)を取得して、本格的に教育者を志すようになりました。

現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?

大きく言えば、金融危機などストレス状況を考慮した金融リスク管理を研究テーマとしています。

例えば、投資家は複数の金融資産を組み合わせて収益を上げることを目的としますが、このときに期待される収益を高めつつ価格変動のリスクを抑えるにはどのように金融資産を組み合わせるとよいのかが問題になります。この資産の組合せ方をポートフォリオといいます。伝統的なファイナンスの理論では価格変動のリスクは価格変動のブレである標準偏差で測ります。この場合、各資産の期待収益、収益の標準偏差がわかっていれば、あとは相関と呼ばれる資産変動の間の連動性を示す-1から+1の1つの指標さえ決められれば、ポートフォリオ収益のリスク(=標準偏差)は決まります。したがって、各資産の価格変動の期待値、標準偏差、資産間の標準偏差を過去のデータなどをもとに推定するというのが伝統的なリスク計測手法になります。

しかしながら、一般にリスクとは損失を被る可能性を評価するものです。ポートフォリオ収益の標準偏差は収益のブレなので、収益が上がって好ましい場合も考慮しています。こうした点で金融実務では、1990年代以降、損失のみに注目したリスク指標が使われるようになりました。Value-at-Risk(VaR)といった指標です。VaRは信頼水準とともに用いるリスク指標で、99%VaRはその水準を超える損失が発生する確率が1%ということ、すなわち、生じる損失を99%抑えられるような水準ということを意味します。こうしたVaRをリスク指標と考えますと、各資産変動の期待値、標準偏差、資産変動間の相関だけではリスクは決まらないことになります。各資産変動の確率分布全体とともに資産変動間の確率的な相互依存関係についても把握していく必要が出てきます。

私が取り組んでいる研究は、この資産変動間の確率的な相互依存関係、これは接合関数(コピュラ)と呼ばれますが、資産変動間の適切な接合関数を考察する研究です。接合関数を相関だけで捉えると、金融危機など資産価格が一斉に下落するような状況はほぼ生じないとしか捉えられず、適切なポートフォリオのリスク管理にはなりません。金融危機などストレス状況を考慮した場合に適切な金融リスク管理には、どのようなモデルでどのような接合関数を用いるのが適切かについて研究をしています。

その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?

金融機関であれば多くの運用資産や貸出を抱える中で経営を持続していく必要があるので、リスク要因のストレス状況を考慮した接合関数は適切に把握しないと経営の持続に影響を及ぼします。中央銀行であればそうした金融機関から生じる連鎖破綻などのシステミックリスクを把握する必要がありますので、リスク要因のストレス状況を考慮した接合関数の把握は必要不可欠といえます。

日常生活では、金融資産をどのように運用していくかということにつながります。資産を増やすという観点では期待される収益が高そうな資産に配分するというのは多くの人が理解できる点だと思います。ですが、期待収益が高くても現実には損失が出てしまうことがあります。そうした損失をなるべく抑えるのがリスク管理です。価格変動の期待値と標準偏差が同じ2つの資産A, Bがあったとします。期待される収益率は資産A, 資産Bをどのように組み合わせても同じです。収益の標準偏差についても資産Aだけ、あるいは、資産Bだけに投資する場合は変わりません。

しかし、資産Aと資産Bを組み合わせると収益の標準偏差を低くすることができます。正確に申し上げると、資産Aと資産Bの価格変動が完全に連動してしまう場合は収益の標準偏差は変わらないのですが、通常は完全には連動しないので標準偏差を抑えることができます。すなわち、収益の標準偏差でリスクを捉える場合、分散投資することによってリスクを抑えられるということです。これは投資の基本です。ですが、リスクを損失が生じる場合に限定すると、資産変動間の適切な接合関数を考察する必要性が生じてきます。直観的には、資産Aの価格が下落するときに資産Bの価格が下落しやすい状況にあるかそうでもないのか、そういったことを意識しながら投資を考える必要があるということを意味します。意識せずに特定の資産あるいは連動してしまう資産に投資すると、投資した資金の大部分を失ってしまう可能性もあるので、根本は理解しておく必要があります。

研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?

大雑把に申し上げると、自身の研究成果を他の方々に利用していただけたときにやりがいを感じます。社会に貢献したと感じられるためです。

論文を日本語で執筆した場合、他の方の日本語の論文や学会報告で参照して頂けることがあります。論文を英語で執筆した場合は、世界中の研究者の論文や学会報告などで参照して頂けることがあるほか、技術的な点については若手の研究者の方々から問合せを受けたりします。問合せに応えるのは大変な面もありますが、研究成果が役立っている証しでもあるので、やりがいを感じます。

貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。

東京都立大学の中で私が担当しているのは大学院経営学研究科(ビジネススクール)のファイナンスプログラムです。経営学研究科は東京駅近くの丸の内サテライトキャンパスで講義を行っています。

金融機関などで働く社会人の高度金融人材育成が主な教育目標ですが、金融機関などで働く予定の社会人経験のない学部卒の学生も受け入れています。他大学のビジネススクールでは社会人経験が求められることが多いのですが、本学では他の大学も含めた学部からの進学者と社会人が一緒になって少人数で議論を交わしながら研究を進めています。ファイナンスプログラムについては、少人数であることに加え、Bloomberg、QUICK FactSet Workstation、日経NEEDS、Datastream、QUICK Workstation、WRDS (CRSP, Compustat, IBES) など、豊富な金融データソースを利用できることが最大の特徴です。これだけの金融データソースを揃えている大学院は、本邦ではこのファイナンスプログラムしかありません。

学部は経済経営学部で八王子・南大沢にメインキャンパスがあります。私自身はこちらの経済経営学部の教育は現在担当していません。上記の金融データソースの一部については学部でも利用できる可能性があるほか、交換留学制度などは充実しています。

先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?

私は金融業界で実務に携わっている社会人学生を担当することが多いため、金融実務での個々の問題意識を大切にしてほしいと考えています。問題の解決には高度な数理的分析力が必要になるのは確かですが、仮想的に設定された問題を解いても金融実務には役立ちません。実際に金融実務で生じている問題、あるいは、生じる可能性が高いことを実務に示せる問題について、解決の糸口を一部でも示すことが、ファイナンスの研究者の役割だと考えています。

大学の学部では将来の職業を見据えて必要な学力を身に付けることが大切だと思います。そのうえで、大学3年生の頃から多くの企業でインターンシップが行われます。興味のある職種についてはそうしたインターンシップに参加し、実務での問題意識に触れていくとよいのではないかと思います。私自身は金融業界からインターンシップの説明会開催を打診されることがあり、その場合は学部から直接進学した修士1年の学生に紹介するとともに、学部学生にも案内するようにしています。

貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?

私が担当している大学院経営学研究科(ビジネススクール)のファイナンスプログラムは丸の内近辺の金融業界で実務に携わっている社会人学生が中心でそれぞれ実務で生じている問題意識を持って在籍しています。

学部から直接進学してきた学生もそうした雰囲気に溶け込みながら研究を進めています。研究については個々の問題意識に沿って進める一方で、少人数で講義などで学生が集まるときは助け合いながら学習を進めています。学生同士の自主的な勉強会などが開催されることもあります。

学部は経済経営学部で八王子・南大沢にメインキャンパスがあります。丸の内とは異なり郊外で広々とした雰囲気があります。ただ、私自身はこちらの経済経営学部の教育は現在担当していないので、学生の具体的な特徴や雰囲気については存じません。

貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?

経済経営学部への進学を考えているのであれば、経済やファイナンスの分析で欠かせない数学をしっかり身に付けることをお勧めします。また、他の学部でも欠かせないのは語学力です。

通常、日本語(国語)はある程度は大丈夫だと思いますが、文章を論理的に記述するようにしていく必要はあります。海外経験がないと英語の習得は大変だとは思いますが、やはり欠かせない点だと思います。将来的に英語でも論理的に文章を書く必要性がでてくることが多いのではないかと思います。

進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。

大学の中での専門分野の選択に迷っているのであれば、入学後に専門課程を選択できる大学への進学が選択肢の1つになるように思います。一方で特定の学部の中でも通常は多様な選択肢があるので、興味に応じてあまり悩まずに学部を選択しても大丈夫だと思います。

上述のとおり、どの学部に進学するにしても、英語・国語はもちろん、数学を身に付けておくと、専門分野に対処しやすくなり、学問への探求も進みます。是非、頑張ってください。