今回は日本大学 薬学部で学部長・教授を務めておられる榛葉繁紀先生へインタビューを行いました。
先生が研究テーマを選ばれた理由などをお話しいただいております。
目次
- 先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
- 研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
- 現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
- その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
- 研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
- 貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
- 先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
- 貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
- 貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
- 進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
実は高校時代、私は「獣医になりたい」と真剣に考えていました。そんな私の転機となったのは、高校3年生の12月、進路面談の時に担任の先生がかけてくださった言葉でした。
理系クラスだった私に、先生は「薬学部という選択肢もあるよ」とアドバイスしてくれたのです。それまで私の中に薬学という選択肢は全くありませんでした。しかし、その時に先生がこうおっしゃいました。
「獣医師になれば、もちろん目の前の動物を助けることができる。それは素晴らしいことだ。でも、もし君が『新しい薬』を作ることができれば、目の前の動物だけでなく、世界中のもっとたくさんの動物や命を救うことができるんだよ」
この「ひとつの薬で、より多くの命を救える」というスケールの大きさに、言葉通り心が震えるほど感動しました。さらに、大学院に進めばどっぷりと研究に没頭できると聞き、「研究ってかっこいいな」という憧れも相まって、薬学の世界へ飛び込むことを決めました。
研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
本格的に研究者を志したのは、大学院の博士課程に進むタイミングでした。
当時の指導教授は非常に厳しい方で、「お前を見ていて、才能がなかったら辞めろと言うし、才能があれば博士課程に来いという。そういう目で見るからな」と言われていました。最終的にその教授から「進学していいよ」と認められたことで、研究者として生きる覚悟が決まりました。
学位取得後は、アメリカへ渡り、約5年間の「武者修行」を行いました。「まずは研究者としての自分を海外でしっかりと確立しなければ、大学という場所には残れない」という強い思いがあったからです。当時は給料も少なく貧乏な生活でしたが、必死に研究に明け暮れました。
アメリカでの修業を終える頃、「40歳を迎える時に自分はどうありたいのか」を逆算して考えました。研究者として「名刺代わり」となる確固たる武器を日本でしっかりと根を張って作りたいと考え、帰国して大学教員として研究と教育に携わる道を選びました。
現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
私は主に、「体内時計(概日リズム)と病気のつながり」について研究しています。
みなさんも子供の頃から「規則正しい生活をしなさい」と周りから言われてきたと思います。私はその『規則正しい生活』がなぜ体に良いのかを、科学的なエビデンス(証拠)を持ってロジカルに証明したいと考え、日々研究を続けています。
私たちの体の中には「体内時計」という、規則正しい生活リズムを作る元となる仕組みが備わっています。しかし、この体内時計が壊れてしまうと、睡眠や覚醒のリズムが崩れてしまいます。それが結果として、様々な病気を引き起こす原因になってしまうのです。様々な実験を通して、そのメカニズムの解明に挑んでいます。
その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
最近発表した論文で、私たちの日常の「食生活」に直結する非常に興味深い発見がありました。
私たちは普段、昼間の活動期には、食事から摂取した「炭水化物(糖質)」をエネルギー源にして生きています。しかし、食事をとらない夜の睡眠時には、体の中に蓄えられている「脂質(脂肪)」を分解してエネルギーへと切り替えているのです。
この「昼は炭水化物、夜は脂質」というエネルギーの賢い切り替えスイッチをコントロールしている正体こそが、実は『体内時計』であることが分かりました。
この研究は、みなさんの生活に深くつながっています。例えば、夜遅くに食事をとったり、昼夜逆転の生活をして体内時計を狂わせてしまうと、この切り替えスイッチがうまく働かなくなります。その結果、脂肪がうまく燃焼されずに太りやすくなったり、糖尿病やがん、うつ病などのリスクが大幅に高まってしまうのです。健康的な生活習慣の重要性を、サイエンスの力で裏付けるのがこの研究の面白さです。
研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
何と言っても、「自分が立てた仮説が、実験によって正しかったと証明できた瞬間」です。
体の中や細胞の中の仕組みというのは、いわば「神様しか知らない領域」であり、私たちはそこに果敢にチャレンジしています。そのため、研究というのは基本的には思い通りにいかないことの方が圧倒的に多いのです。
だからこそ、泥臭く実験を重ねた結果が、ぴたりと自分の予想通りに形になった時の喜びは格別です。大学院生の頃、どうしても諦めきれない実験があり、機械の前に座り込んで一晩中データが打ち出されるのをじっと待っていたことがありました。夜が明ける頃、目の前のモニターに自分の予想通りの美しいデータが映し出された時のあの感動は、今でも鮮明に覚えています。
貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
日本大学薬学部の最大の強みは、「日本最大級の総合大学の中にある薬学部」という点にあります。
単科の薬科大学とは異なり、キャンパス内には本当に多様なバックグラウンドや価値観を持った他学部の学生たちが溢れています。この「いろいろな人と出会い、交われるチャンスがある」ということ自体が、未来の医療人を育てる上で非常に大きなメリットになります。
医療の現場に出ると、薬剤師が出会う患者さんは千差万別です。年齢も違えば抱えている病気も違い、その捉え方や感受性も人それぞれです。そうした多様な人々に向き合い、相手の言葉を受け止めて正しい答えを返すためには、豊かな「人間力」や「対話力」が欠かせません。日本大学という大きな環境の中で、他者との「違い」を肌で理解しながら過ごす時間は、間違いなく皆さんの人間性を大きく広げてくれます。
また、学部の枠を超えた自由度の高さも魅力です。例えば、薬学部の学生のアイデアを元に理工学部の学生と協力して、塗るだけで目が覚める「スティックタイプの香水(製剤)」を開発し、実際に商品化まで結びつけた実績もあります。総合大学だからこそできる、学生のチャレンジを全力で応援する風土がここにあります。
先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
私のゼミでは、学生たちに「多角的に物事を見る力」と、それを「人に説明する能力」の2つを徹底的に求めています。
「多角的に物事を見る」というのは、「隠れているものを見つけ出す力」と言い換えることができます。教科書通りの見方を身につけることは当然ですが、それだけで満足せず、「本当にこれだけか?」「何か見落としはないか?」と、常識を疑い、細かく観察する癖をつけてほしいのです。患者さんの何気ない一言や、わずかな違和感の裏に、重要なシグナルが隠れていることがあるからです。
そして、違和感に気づいたら、決してスルーせずに「口に出して確認する・対話する」こと。ゼミの発表会でも、学生たちには「分からないことがあれば、分からないと言いなさい」と言っています。先輩や教員の発表であっても、疑問を口にすることで、お互いに新しい気づき(異変のチェック)が生まれるからです。自分の考えを相手にわかりやすく伝える「プレゼン力」も含め、徹底的な対話を通じて、医療現場で即戦力となるコミュニケーション力を養っています。
貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
他学部から来られた先生方が口を揃えておっしゃるのは、「薬学部の学生は、本当に真面目で、素直で、いい子たちが多い」ということです。キャンパス全体にとてもアットホームな温かさがあります。
学内の客観的なデータを見ても、薬学部の学生は「他者との違いを分析する力」や「物事を論理的に組み立てる力」が、学内でも突出して高いという結果が出ています。これは、ただ自己主張をするのではなく、まずは「相手の意見をしっかりと聴く(傾聴力)」が優れている証拠でもあります。
日本大学には「自主創造」というスローガンがありますが、本学部の学生たちは、お互いの個性を認め合い、楽しく「わちゃわちゃ」と協調しながらも、自立して深く考える力を持った、非常にバランスの良い優しい学生が多いのが自慢です。
貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
まず学習面で言うと、薬学部は「化学」のイメージが強いかもしれませんが、実際には生物、数学、物理など、理数系の科目はすべて繋がっており、満遍なく必要になります。ですから、今のうちに理系科目を嫌わずに、基礎を満遍なく学んでおいてほしいなと思います。
そしてそれ以上に大切なのは、高校生活の中で「自分が何かひとつでも熱くなれるものを見つけること」です。勉強でも、部活でも、趣味でも、何でも構いません。何かに一生懸命になって夢中で取り組んだ経験がある人は、大学に入ってからも、ここぞという時に強いエネルギーを発揮して頑張ることができます。
また、できるだけ本を読んだり、いろいろな場所へ出かけたりして、自分の「興味の幅」を広げておいてください。最初から型にはまったガチガチの人間を目指す必要はありません。視野を広く持ち、いろいろなことに好奇心のアンテナを立てられる柔軟さ(多様な価値観)を持って、大学の門を叩いてほしいですね。
進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
高校生のみなさんにまず伝えたいのは、「18歳の時点で、人生の完璧な答えを見つけようとしなくていい」ということです。進路に迷うのは当然ですし、最初から完璧な未来予想図を持っている人なんていません。
もし進路に迷ったら、「どの学部にするか」を狭く考える前に、「自分は将来、どうありたいか」「どんなことにワクワクする人間なのか」という、自分の内なる声や憧れに耳を傾けてみてください。私自身、「動物を救いたい、命の役に立ちたい」という漠然とした想いから逆算した結果、今こうして薬学の研究者になっています。
大学という場所は、定額でいくらでも知識を吸収できる「知のテーマパーク」のような場所です。そこで得る学びを最高の価値にするか、ただ通り過ぎるだけにするかは、みなさんの主体性(自分自身の意志)次第です。日本大学薬学部には、みなさんの可能性をどこまでも広げる環境と、熱い教員が待っています。ぜひ、自分の可能性を信じて、一歩を踏み出してみてください!