今回は弘前大学 理工学部 機械科学科で教授を務めておられる鳥飼宏之先生へインタビューを行いました。
先生が研究者を志したきっかけや研究を進める中で最もやりがいを感じる瞬間をお話しいただいております。
目次
- 先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
- 研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
- 現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
- その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
- 研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
- 貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
- 先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
- 貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
- 貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
- 進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
今の専門分野は自分で選び取ったと言うよりは,“たまたま”辿り着いたというような感じです.
自分が大学生のときには慶應義塾大学 理工学部 機械工学科に通っていました.当時,私は機械工学の知識を活かして,より良い義手・義足などを作って福祉の分野に貢献したいなんてことを考えていました.ただ1浪してやっと大学に受かったことに舞い上がり,まったく経験のない体育会 馬術部に入部しました.その結果,土日も関係なく,ほぼ毎日大学の馬場に通って馬に乗ったり,馬の足を洗ったりする学生生活を過ごすことになりました.結局,大学2年生の終わりに退部し,3年生から自分の専門を真面目に勉強し始めたのですが,時すでに遅く,それまでの成績が影響して希望していた制御系の研究室には配属されませんでした.
そのとき,たまたま配属された先が,機械工学における熱流体工学分野の一領域である燃焼工学を研究する研究室でした.燃焼の研究には,大きく分けてエンジンなどの推進機関やガスタービンなどの発電に関係するエネルギー生成の研究分野と火災に関連する防災の研究分野の2つがありました.燃焼研究において,元々私が貢献したいと考えていた福祉分野に近いのは,火災や消火に関するコトなんだろうと,当時,限られた知識の中で考えました.そして,その考えに基づいて火災・消火に関する燃焼現象を自分の興味の中心に置いて研究を開始し,現在にまで至っています.
また燃焼研究を行っていた学生時代に,阪神・淡路大震災が生じ,その地震発生後に市街地で同時多発的に生じた大規模火災を,迅速に消火できないという現実に直面したことも,自分自身の中で『消火の研究が必要なんだ』,『なんとしても消火の研究を行っていくんだ』という今にも続く強い決意となっていると思います.
以上のように,専門分野の決定に関しては,偶然によるものという感じです.ですが,今では,その偶然も1つの運命として受けとめ,楽しく弘前大学 理工学部 機械科学科で,弘前でしかできない独自の消火研究をしております.
研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
私には『絶対,研究者になるんだ!』というような志を立てる雷に打たれるような出来事も,憧れるような人との出会いも,強烈な若い頃の原体験も特に持っていません.これといった明確なきっかけが有るわけではありませんでしたが,目の前にあることを一生懸命行っていく中で今の職業に至っています.ただ,大学の学生時に憧れを抱いている研究者はいました.
それはマイケル・ファラデーという19世紀のイギリスで活躍した唯一無二の科学者です.ファラデーは独自の『実験』と『観察』を通して自然界に存在する一般法則を含め様々な発見を行っています.ただ,ファラデーの研究論文には,一切,数式が使用されていないという特徴が有りました.このファラデーが数学を使用しない(または使用できない)理由として,ファラデーが正式な高等教育を受けていないからと言う説もあれば,ファラデーが信仰していた宗教的な理由からという説もあります.ですが事実として,家庭の経済的な事情からファラデーは,当時の英国において小学校程度の教育しか正式に受けていませんでした.そのようなファラデーですが,自分の得意技である『実験』と『観察』を駆使して,つまり,自分の短所を捨てて長所を最大限に活かすことで,他の人にはできない偉業を数々行っています. 誰しも,他の人と比べて自身の能力が劣ってると感じる欠点や弱点をもっているものです.だとしても,自分の独自の強みや得意技にこだわり,他者から見てその生き方が歪に見えたとしても,それを活かして独力で自分の人生を切り開くファラデーの生き様はとてもカッコいいと感じていました.そのような憧れが,今の職業としての立場に至った一つの要因だったと言えなくはありません.
現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
燃焼工学を基礎とした『消火の実験的研究』を行っています.
皆さんご存じのように,世界的に気候変動の影響により大規模な森林火災が各国で頻発し,しかも,現在の消火技術では迅速に鎮圧することが難しく,結果として自然環境や人間社会に大きな被害を引き起こしています.同様に,近年,日本国内においても大きく燃え拡がる森林火災が繰り返し発生し,同様に速やかな消火が達成できず甚大な被害をもたらしています.このように,これだけ科学・技術が発達した世の中でも,実は火災,特に大規模になった火災を消火することは非常に難しいのです.そこで,このなかなか消せない火災を,より短時間で消火可能となるような新しい消火法や消火戦略についての研究を実験的に行っています.
具体的には,微小爆薬を使用して形成した爆風を用い,その流体力学的な効果により火炎を吹き飛ばして消す爆風消火法の研究を行っています.爆風消火法は,油採掘場などで生じた油井火災に対して,ダイナマイトを用いて消火する方法として用いられてきました.油井火災は,家などが燃える火災と比較して,火勢(発熱速度)が極端に大きく水をかけただけでは到底消火できません.そこで,短時間に大きなエネルギーを発生する爆薬を用いて消火を達成するのが爆風消火です.この方法で油井火災を瞬時に消火できることは知られているのですが,その消火がどのような消火機構で生じているのかは不明でした.そこで,アジ化銀と言われる微小な爆薬を用いて,その爆風消火の消火機構の解明と,どのようにして火災に対して爆薬を配置すれば良いかという消火戦略について検討を行ってきています.鳥飼研究室では,大規模林野火災や国内で生じる地震火災に対する効果的な減災手段として爆風消火の活用を検討しています.
また他にも,リニア・アクチュエータやステッピングモータを利用して人が消火器を用いて消火する動作を模擬し,どのように消火器を用いれば効果的に消火が達成可能なのかということも調査しています.更には,超音波やレーザというような水を使用しない消火法の開発にも取り組んでいます.
その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
もし火災が発生し,皆さんの大切にしているものが焼けてしまった場合,それらを元の状態に戻すことは決してできません.ですので,火災が発生したときには速やかに消火する必要があります.特に,火災は時間と共に大きくなる性質を有しているのでなおさらです.そのため,誰もが迅速に消火できる技術や方法が必要となります.加えて,水や粉末消火剤は効果的な消火剤ですが,それらを使用して消火活動を行うと,建物や設備の水損や汚損がおこり,せっかく火が消えても,消火活動によって引き起こされる2次的な被害が生じることがあります.そのため,火災現場を汚さないクリーンで,かつ,迅速に消火達成可能な消火技術の開発が必要となります.
地震や津波,台風や火山の噴火など様々な災害が有り,その災害の1つが火災です.めったに火災に遭遇することはないかと思いますが,一度発生し,大規模化すると引き起こされる被害は甚大です.このような被害を最小限にくい止めるためにも,消火の研究は必要であり重要となります.
研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
私の研究室で行っている研究は,消火に関する実験的研究です.
この研究を行うときに,真剣に考え,丁寧に実験を行い,そして,現れた現象を真摯に観察すると,必ずといっても過言ではありませんが,誰しもが『発見』を手にすることができます.つまり,世の中の人は,まだ誰も知らない事実を手にすることができるのです.この発見の喜びは,研究を行う上で最もやりがいを感じる瞬間だと言えます.
貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
弘前大学 理工学部は,理学系の数物科学科,物質創成化学科,地球環境防災学科そして工学系の電子情報工学科,機械科学科,自然エネルギー学科という6つの学科を有しています.それぞれの学科の詳細や特徴などは弘前大学 理工学部のHPにあるパンフレットをご覧下さい.
また弘前大学 理工学部では,オンライン入試説明会を開催しています.その説明会では,各学科を各学科に所属する教員が詳細に説明し,そして,いただいた質問にもお答えします(申込の詳細は理工学部HPを確認して下さい).オンラインではありますが,双方向で言葉を交わすことのできる機会を通して,本学の特色を感じ取ってもらえると嬉しいと考えています.
ただここでは,パンフレットに記載していない弘前大学 理工学部の魅力についてお話します.弘前大学を訪れた経験のある方はご存じかと思いますが,弘前大学は決して大きな大学ではありません.理工学部がある,津軽富士と呼ばれる岩木山が目の前に広がる文京キャンパスもこぢんまりとしております.ですが,小さなキャンパスであるが故に,弘前大学では,大学に来れば必ず友人・知人の誰かに出会うことができます.文京キャンパスには理工学部以外の教育学部,人文社会科学部そして農学生命科学部などの学生達もいます.そのため,自分の所属学部以外の学生とも気軽に交流することできます.実際,理工学部の学生に『弘前大学の良いところ』をアンケートなどで聞くと,『キャンパスがこぢんまりとしているところ』と回答する学生は少なくありません.
世の中には,こんなことわざがあります.
“If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.”
これは「早く行きたければ一人で行け,遠くへ行きたければみんなで行け」ということを言っています.このことわざを踏まえて大学での学びについて考えると,『何かを学ぶとき,早くではなく,深く学びたいならば共に学ぶ仲間が重要』ということが言えるのだと思います.その意味では,気軽に自分の学部の学生とも出会え,また,他学部の学生とも容易に交流でき,気心の知れた仲間をたくさん作ることができる弘前大学 理工学部がある決して大きくないキャンパスは,1つの魅力と言えるかと思います.
先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
前の問いでも答えたように,大学において孤独に学ぶのではなく,気心の知れた仲間と共に自分の興味があることに真剣に,自分に嘘をつかず,懸命に向きあって勉学や研究に励んでくれれば素晴らしいと思っています.
また,弘前大学は自然豊かな青森県にあります.そして弘前市では,春には桜祭り,夏にはねぷた祭り,秋には紅葉を楽しむもみじ祭り,そして冬には雪灯籠まつりというように四季折々のイベントが行われ,季節の変化を明確に感じることができます.ぜひ,大学での学びだけでなく,暮らしを営む弘前の街も楽しみながら勉強・研究に向きあってもらえると良いと考えています.
貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
理工学部の学生の出身地割合としては,40%が青森県,同じく40%が北海道そして20%が他県近県となっています.基本的には,北国で育ってきた学生が多いのが特徴です.特に,理工学部の学生は,おとなしく真面目な学生が多い印象を受けます.特に真面目だなと感じるのは,積雪が多く寒さの厳しい冬期にも,弘前大学の学生は,サボったりせず講義にきちんとくるところは,本当に偉いと思います(もちろん,幾名かはサボったりしているかと思いますが).また,みな素直で意地悪な学生は非常に少ないです.大学院への進学率も高く,学科に依存するところはありますが,5割以上となる学科も少なくありません.
教員という立場からの視点としては,弘前大学 理工学部にはとても人間性の優れた学生が多く集まっていると感じています.実際,弘前大学 理工学部および大学院 理工学研究科を,卒業・修了して就職した学生の企業人事からの評価はとても高く,毎年多く企業から求人を得ています.
貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
特に,何かをしておかなければならないという具体的なものは,私はないと考えています.ただ,自分の進路について大いに悩んで欲しいと思っています.その悩みが深く,考える時間が長いほど,皆さんにとって重要な選択ができると思っています.もちろん深く,長く考えたからと言って,正解の選択が得られるわけではないし,選択が正解となるわけでもありません.ですが,『考える』ということが,例え下した決断や選択が失敗に終わったとしても,次の機会に自身を正解と成功へ導いてくれる重要な手がかりを与えてくれるモノだと思います.
ですので,自身の心の奥底の欲求を明確に言語化できるほどに,懸命に思考することが重要だと思っています.
皆さんの年頃では,何かを成し遂げたい,またはやって見たいという自分自身に期待する前向きな気持ちと,また,自分自身の能力に自信が持てず将来に不安になるという後ろ向きな気持ちが,繰り返し交互に現れ煩悶する日々かと思います.ですが,その思い悩む日々が青春です.ぜひ,その青春を,謳歌してもらえればと思っております.
進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
日常にあるささいな事柄で良いので,自分の『好き』を大切にして下さい.そして,その個人的な『好き』ということを通して,自分の生き方や,世の中のあり方をより良くできる方法を考えてください.その自身の『好き』を起点として,世の中に貢献できる方法が,弘前大学 理工学部にあれば,ぜひ,弘前大学へ来て下さい.皆さんと一緒に,学び,唯一無二の研究ができることを楽しみにしております.