今回は、文京学院大学経営学部経営コミュニケーション学科で学科長・教授を務めておられる平田博紀先生へインタビューを行いました。

シグナリング理論を用いてスタートアップの資金調達を読み解く研究や、実践重視の学びの特色についてお話しいただいています。

現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?

創業まもない会社、いわゆるスタートアップが、どうやって活動するために必要なお金を集め、それをどのように使えば成長し、新しい価値を生み出せるのか、それを起業家の目線から研究しています。

いま特に取り組んでいるのは、その入り口にあたる「お金を集める」段階です。

なぜこのテーマに取り組んでいるかというと、大企業を前提にした経営学と、創業まもない会社の経営学は、まるで別物だからです。

大企業には長年の実績があり、決算書があり、判断の材料が揃っています。ところが創業直後の会社には、売上もほとんどありません。外から中身が見えないのです。

それでも投資家は判断を下し、時には億単位のお金を出します。

では、投資家は何を見て、投資判断をしているのでしょうか。ここがまだ解けていません。

投資家が手がかりにするものの一つが、起業家がそれまでに積み重ねてきた経験と、そこから見える可能性です。

たとえば、皆さんが志望理由書に、高校時代の部活動やボランティア活動、委員会活動等における経験を書くのと仕組みはまったく同じです。

中身を直接見せることができないから、見える手がかりを差し出す。この手がかりを「シグナル」、差し出すことを「シグナリング」と言います。

具体的には、日本のスタートアップが、初めて活動資金を集めたときのデータを分析しています。見ているのは二つです。

一つは、起業家がどんな経歴を持っていたか、もう一つは、資金調達時に会社にいくらの価値がつき、いくら集まり、どれくらいの期間で集まったかです。

この二つのデータを突き合わせ、その関係を分析しています。

分かってきたのは、単独で効くシグナルは、ほとんどないということです。

「理系の大学院を出ている」だけでは決め手にならない。

それが「業界での実務経験」や「共同創業者の存在」と組み合わさったとき、初めてシグナルとして効いてくる。

しかも有効な組み合わせは、研究者出身か営業出身かといった経歴のタイプごとに違います。つまり、成功のルートは一本ではありません。

「こうした経歴、経験を持っていないと評価されない」という単一の正解はなく、複数の経路がある。この「組み合わせの地図」を描くのが、私の現在の研究です。

その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?

一つめは、皆さん自身の話です。進学でも就職でも、評価する相手は、最初からあなたのことを知っているわけではありません。だから何かを手がかりに評価することになります。

その時に参照する手がかりは、「英検を持っているか」「留学経験があるか」といった単独の要素ではなく、様々な経験や実績の組み合わせになります。

そして、その組み合わせの正解は一つではありません。伝えたいあなたの価値を、あなたの経験の組み合わせで伝える。

この見方を持っておくと、進路の考え方がかなり楽になるはずです。

二つめは、10年後の社会の話です。いま創業直後の会社の何割が資金を得られるかが、10年後にどのようなサービスが生まれ、残っているかを大きく左右します。

皆さんがスマホで毎日使っているアプリを作っている企業の中には、誰かが『見えない中身』に可能性を見いだし、資金を投じたことで成長したものもあります。

一方で、十分な可能性がありながら資金を得られず、成長の機会を失ってしまった企業もあります。

企業が適切に評価される仕組みを研究することは、成長可能性のある企業の資金不足による退出を減らす一助になります。

「まだ知らない相手に、伝えたい価値をどう伝えるか」という問題は、皆さんの身近なところに存在しています。

研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?

分析を始める前には、当然こちらにも仮説があります。「こういう経歴の人が評価されるだろう」と。

ところが実際に検証してみると、まったく想定していなかった組み合わせが浮かび上がってくることがあります。

自分の思い込みが、自分の集めた数字によって壊される。この瞬間が一番おもしろいところです。

研究とは、賢い人が正解を語ることではなく、世界に自分の常識を訂正してもらう作業なのだと、毎回思い知らされます。

貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。

まずはやってみる。経営学部の学びは、実践と理論の往復でできています。

実際の企業や自治体の課題解決に取り組み、その後に教室でフレームワークを学ぶ。

体験だけでも理論だけでも身につかないものが、この往復のなかで定着します。

1年生全員が、最初の1年で実際の企業と向き合います。

必修科目「初年次ラボ」では、学生10名程度のクラスを編成し、学内や企業の実課題の解決に取り組みます。

私は統括担当としてこの科目の立ち上げに携わりました。1年生全員と専任教員全員が関わる、学部として初めての試みです。

正直、始めた時点では手探りでした。

それでも経営学部らしく「まずはやってみる」で走り出し、ご協力いただいた企業の皆さんの知恵を借りながら形にしていきました。

驚いたのは企業側の反応です。

「学生から出た質問を社内で共有し、今後の活動について意見交換をした」「学生との交流をきっかけにホームページをリニューアルした」。

学生からの提案や問いが、企業を実際に動かしています。

パイロット版からご協力いただいている企業とは複数年の産学連携になり、毎年学生との交流を楽しみにしてくださっています。

その後は各学科のカリキュラムにあるマネジメントや財務・会計、マーケティングやデザイン、そして、コンテンツに関する科目を履修しながら、学生たちは教員の指導の下、確かな専門性を身につけていきます。

特に、経営学部の教育の中心であるゼミナールへの入室率は、毎年90%以上となっています。

2年次の基礎ゼミでは複数の教員のゼミを受講しながら学生が自身の関心を確かめ、3年次からの専門ゼミにおいて、学生それぞれが興味に基づき研究を深めています。

ゼミナール以外にも学んだことを実践的に試せる授業としてフィールドワーク科目があります。

この授業では、キャンパスを飛び出し、企業や自治体、地域と連携し、学生たちが主体的に様々なプロジェクトを立ち上げ、動かしています。

また、教員とキャリアセンターが関係を築いてきた約80社(2025年度実績)において、1年次からインターンシップに参加する機会があります。

金融、商社、IT、広告、人材、会計、ホテル、プロスポーツクラブなど幅広い業界・分野での体験を通して、将来を考えることができる環境が整っています。

2023年度より「マーケティング・デザイン学科」を新設し2学科制となった経営学部は、2027年4月に「経営コミュニケーション学科」を「ビジネス・プロデュース学科」へ変更し、新たなステージに入ります。

企業や社会が持つ様々な人や技術、能力、そしてお金を組み合わせて、新たな価値を生み、それをビジネスとして実現する「プロデュース力」の育成を明確に打ち出し、皆さんの希望する将来の実現に向けて活動していきます。

貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?

特別な準備は要りません。経営学の本を先に読んでおく必要もありません。

ただ、今のうちに習慣にしてほしいことが二つあります。

一つは、体験を言葉にして残すことです。

部活でも、アルバイトでも、旅行でも、好きなアニメでも構いません。

やりっぱなしにせず、「なぜ面白かったのか」「なぜうまくいかなかったのか」を、200字でいいので書き残すようにしてください。

書こうとすると、自分が何を分かっていなかったかが見えてきます。

それが問いの始まりです。

もう一つは、企業を一社、追いかけてみることです。

興味のある会社でも、名前を聞いたことがある会社でも構いません。半年間、その会社のニュースを追ってみてください。

できれば、決算資料も眺めてみてください。

全部は分からなくて構いません。

外から見ているだけでは、その会社の中身は分からない。

実はこれこそ、経営学が正面から扱っている問題です。

「分からない」を抱えたまま眺め続けた経験が、入学後に効いてきます。

好奇心と、それを言葉にする習慣。

この二つがあれば、やがて行動力につながり、充実した4年間になるはずです。

進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。

進路に迷っているなら、それは真剣に考えている証拠です。

進路相談で一番よく聞くのが、「やりたいことが見つかりません」という言葉です。

でも、見つからなくて当然だと思います。

高校までに触れられる学問は、世の中にあるもののほんの一部にすぎないのですから。

やりたいことは、まだ出会っていないものの中からは選べません。

社会の課題を解決したい、誰かのニーズに応えたい。

そうした目標にたどり着くために、どのような事業が必要なのか。

どのような組織をつくり、どう動かせばよいのか。

そして、人と人はどう協働すればよいのか。

私が専門とする経営学は、それを明らかにする学問です。

ただし、経営学が示すのは、唯一の正解ではありません。

同じ課題を前にしても、うまくいく道筋はいくつもある。

そこが面白いところです。

高校までは、用意された正解にどれだけ速くたどり着けるかが問われました。

大学で問われるのは、問いを立てる力、そしてそれを自分の言葉で人に伝える力です。

やりたいことは、探して見つかるものというより、何かに取り組んでいるうちに、気づいたら手の中にあるものです。

その「何か」に出会う確率を上げるために、大学の4年間があります。

自分に何が向いているのか。

動いてみて、初めて見えてくる。

文京学院大学経営学部が「まずはやってみる」を掲げているのは、そのためです。

だから、これまでのものさしで、自分の可能性を測らないでください。

そして、迷いを消してから進む必要もありません。

迷ったまま、来てください。

経営学を学び、その学びを使って実際の課題解決に挑む。

そんな4年間を通して、未来を一緒に考えましょう。