今回は、東京通信大学情報マネジメント学部で学部長を務めておられる加藤泰久教授へインタビューを行いました。
オンライン学習を続けるための自己調整学習の研究や、情報マネジメント学部ならではの学びの特色についてお話しいただいています。
目次
- 先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
- 研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
- 現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
- その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
- 研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
- 貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
- 先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
- 貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
- 貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
- 進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
もともと教育工学を専門に選んだわけではありませんでした。
大学院の修士課程で研究していたのは、ニューラルネットワークの学習アルゴリズムです。
いま話題の生成AIの、いわば祖先にあたる技術ですね。
修了後はNTTに入社し、音声サービスや三次元仮想空間(VR)の研究開発に携わりました。
VRの研究で、応用分野の一つとして教育を考え始めたことが、私と教育との最初の接点です。
その後、自分の子どもの成長を見るうちに教育そのものへの関心が高まり、教育とテクノロジーを組み合わせると何ができるのかに惹かれて、スタンフォード大学大学院教育学研究科のLDT(学習・設計・技術)専攻に留学しました。
技術から入って教育工学にたどり着いた、という道のりです。
研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
研究者を志したのは、修士課程の2年生の頃です。
まだ世の中にない仕組みを自分で考え、それが多くの人に使われる技術につながっていく。
そこに大きな魅力を感じていました。
企業の研究所で研究開発に携わった後、50歳頃にもう一つの転機が訪れます。
国際連携や研究開発マネジメントが仕事の中心となり、教育に直接携わる機会が少なくなっていたところで、以前から関心のあった教育を、もう一度本格的に学んでみたいと考え、会社に在籍したまま熊本大学大学院教授システム学専攻の博士後期課程に進学しました。
その後、高校生向け大学受験教材の開発・運用をグループ会社で担当し、全国の高校を訪ねる中で「技術をつくること」と同じくらい、「技術で人の学びや成長を支えること」が面白いと実感しました。
20代は技術で、50代は学びで社会の役に立ちたい。
どちらも、答えのない問いに向き合う仕事です。
現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
研究テーマを一言でいうと「オンラインで学ぶ人は、どうすればやる気を保ったまま学び続けられるのか」です。
オンラインでは、教室のように誰かがいつも隣で見ていてくれるわけではありません。
だからこそ自分で目標を立て、進み具合を確かめる「自己調整学習」が重要になります。
では、それができる人とできない人は何が違うのか。
そこが私の出発点です。
東京通信大学のようなオンライン大学では、学習履歴がデータとして残ります。
私はこの学習データ(ラーニングアナリティクス)と学生へのアンケートを組み合わせて、学び続けられる人と途中で止まってしまう人の違いを、9年にわたって調べています。
たとえば、ゲームに夢中になって気づいたら2時間経っていた、という経験はありませんか。
あの「時間を忘れる状態」はフロー状態と呼ばれ、研究の対象になっています。
勉強でもあの状態をつくれないか、それを学習データと突き合わせて分析しているわけです。
その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
みなさんが動画やアプリで勉強するとき「今日はやる気が出ない」「三日坊主で終わった」という経験はないでしょうか。
私の研究は、その「続かなさ」を根性の問題ではなく、環境と設計の問題として捉え直すものです。
社会とのつながりも広がっています。
科学研究費助成事業(科研費)の助成を受け、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を担う人材をどう育てるかを研究してきました。
人生100年時代、学びは学校を出たら終わりではなく、働きながら続くものになります。
学び方を学ぶ研究は、みなさんが社会に出た後にこそ効いてくるテーマです。
研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
データの中から、自分の予想とは違う事実が顔を出す瞬間です。
9年調査を続けていると「この学年だけ傾向が違う」といった小さなズレに気づきます。
仮説が外れたときほど、面白い問いが立ち上がります。
もう一つは、人の成長に立ち会えたときです。
指導している学生の発表を見たのですが、自分が発表するときよりも緊張しました(笑)。
人の成長を自分の成長より喜べること。
これは研究者・教育者ならではの喜びだと思っています。
貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
東京通信大学情報マネジメント学部の特色は、大きく三つあります。
第一に、ITと経営・ビジネスを融合して学べることです。
「つくれる(IT)」だけでなく、それを社会やビジネスでどう活かすか(経営)までセットで学びます。
卒業生は、IT企業はもちろん、さまざまな企業のDX部門などで幅広く活躍しています。
第二に、時間や場所に縛られず自分のペースで学べる「完全オンライン(オンライン完結)」の教育環境です。
単に「一人で学べる」というだけでなく、「一人で孤立させない」工夫が詰まっているのが本学部の大きな特色で、いわば「オンライン寺子屋」のような温かい学び場となっています。
同じ地域の学生同士で勉強会を開くなど自主的なコミュニティも生まれています。
また、研究成果を生かした学生支援を行っており、学生がつまずきやすい時期を見越して教員から声をかけるなどのサポート体制を構築しています。
その結果、最初の壁とされる2学期目の継続率は94.4%(2025年度実績)にのぼります。
第三に、社会で即戦力となる「実践的なカリキュラム」と豊富な学びの選択肢です。
最新のDXやマーケティング、プログラミングなどを基礎から実践的に習得できます。
さらに、専門科目を日本語と英語で学べる「グローバルITリーダーコース」や、高校生に人気の「専門スキルプラス」(ゲーム制作、3DCG・動画制作、WEBサイト制作などを学べるオプションプログラム)など、個人の興味や目指す将来に合わせて専門性を高められる環境が整っています。
特にオンラインゼミ「つながるTOUゼミ」では、NTT東日本と連携し、学生自身が毎日使う学習環境の改善を社員の方に提案するなど、自分が当事者である課題を、その分野のプロにぶつける実践的な場となっています。
先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
「教わる」だけでなく「学び合う」ことを大切にしてほしいと思っています。
私が理想とするのは、江戸時代の寺子屋のように、年齢も学力も違う人が一か所に集まり、先生からだけでなく、互いに教え合う場です。
あの環境をオンラインで再現したい。
それが私の「オンライン寺子屋」構想です。
もう一つは、答えではなくプロセスを大事にすること。
生成AIを使えば答えらしきものはすぐ手に入りますが、だからこそ問われるのは、試行錯誤しながら自分なりの意味をつくる過程です。
貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
何より多様です。
高校を卒業したばかりの学生も、働きながら学ぶ社会人も、子育てと両立している方もいて、まさに「オンライン寺子屋」に近い顔ぶれです。
この多様さは強みになります。
得意な分野をもつ学生が苦手な学生に教えれば、教える側は理解が深まり、教わる側は身近な言葉で吸収できる。
そんな相乗効果が、オンラインでも生まれています。
自分のペースで淡々と学ぶ学生が多い一方、ゼミやイベントには驚くほど積極的に集まる。
静かですが、熱量の高いキャンパスです。
貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
入学前に特別なスキルは要りません。
ただ、入学後に伸びるのは自分で決めて動くことが苦にならない人です。
一つ目は、自分の学び方を知っておくこと。
この「自分の取扱説明書」は、オンラインで学ぶ最強の武器になります。
二つ目は、生成AIを「答えをもらう道具」ではなく「自分の能力を伸ばす道具」として使うこと。
自分でまず考え、AIに反論させ、比べてまた考える。
三つ目は、小さくてよいので何かを最後までつくりきる経験です。
完成させた経験は、うまくいかない時期を乗り越える自信になります。
進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
「何とかなる。でも、まず動いてみる」ことです。
私自身の経験から、そう思っています。
音声の研究から始まり、VR、留学、社会人博士課程を経て、50歳を過ぎてから大学教員になりました。
振り返れば一本の道に見えますが、その時々では先が見えていませんでした。
いま進路が一つに決まらなくても心配はいりません。
大事なのは、選んだ場所で自分がどう学ぶかです。
東京通信大学も、みなさんが自分の問いを見つけ、仲間とともに追いかけられる「寺子屋」でありたいと思っています。