今回は、京都府立大学環境科学部で教授を務めておられる宮藤久士先生へインタビューを行いました。
木質バイオマスの活用による脱炭素社会の実現に向けた研究と、実際の森林で学べる環境科学部の特色ある教育についてお話しいただいています。
目次
- 先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
- 研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
- 現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
- その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
- 研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
- 貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
- 先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
- 貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
- 貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
- 進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
先生が現在の専門分野・研究テーマを選ばれたのは、どのようなきっかけがありましたか?
私は大学受験の際、農学部を選択しました。高校生のときに進路を考え、農学は食料・水・自然環境など、人間の「生命」に関わる学問分野が多く、とても重要な分野だと感じたからです。
具体的には、植物が光合成によって酸素を供給してくれている、という点に強い関心を抱きました。
多くの酸素を供給してくれているのは森林です。そうした分野を学べるのが農学部であり、どのような分野でも興味を持って取り組めそうだと感じました。
農学部の中では林産工学科という、木材を学ぶ学科に所属しました。
4年生で配属された研究室では、木材を液状にしてプラスチックを作ったり、木材を燃えにくくする化学的処理技術を研究していました。
化学の力で木材とは異なる新しい材料を開発するという研究にとても魅力を感じ、興味を持って取り組むことができました。
それ以来、場所や立場は変わっていますが、同じような研究をずっと続けています。
振り返ってみると、最初から研究の全てがおもしろかったわけではなかったと思います。
しかし継続していくうちに、分からなかったことが理解できたり、新しい研究技術が身についてできることが増えたりして、研究の面白さをだんだんと感じるようになりました。
研究者・教育者を志されたのはいつ頃でしょうか?そのきっかけとなった出来事や人物がいれば教えてください。
小・中・高、そして大学3年生までは講義が中心の教育でしたが、正直なところそんなに面白さを感じることができませんでした。
しかし、大学4年生で取り組んだ卒業論文研究は、講義とはまったく違いました。
研究では、あるテーマについて仮説を立て、まだ誰も答えを知らないことを明らかにしていきます。これは講義とは異なる、とても新鮮な感覚でした。
この時に研究の面白さを感じ、大学院修士課程への進学も決めました。大学であれ企業であれ、研究を職業にできればいいなと思い始めたのもこの頃です。
大学院を卒業した後は、まず企業に研究員として就職しました。
企業ならではの研究スタイルもあり、大変勉強になりましたし、研究職を選んでよかったとも感じました。
その後、卒業論文・修士論文でご指導いただいた先生からお声がけいただき、企業を辞めて大学に戻り、教員として研究・教育に関わるようになって現在に至ります。
いろいろなご縁で現在の立場にありますが、どこにいてもどんな形であれ、研究は続けていたと思います。
現在取り組まれている研究テーマについて、高校生にもわかりやすくご説明いただけますか?
私が所属している森林科学科は、森林を総合的に学べる学科です。
その中で私は、森林資源である木材を上手に使う新しい方法を研究しています。現代風の言葉で言えば、バイオマス利用に関する研究です。
現在、木材は住宅の柱や床、家具などに使われています。
私はそのような使い方ではなく、木材からプラスチック原料を作ったり、自動車用の燃料を作ったりする方法を研究しています。
プラスチック原料も燃料も、現在は石油・石炭・天然ガスなどの化石資源から作られています。
しかしこれらの資源には限りがある上、大量使用による二酸化炭素の排出が地球温暖化の原因とも言われています。
少しでも化石資源の使用量を削減するために、木材から効率よく原料や燃料を作る方法を日々研究しています。
その研究は、私たちの社会や日常生活とどのようにつながっていますか?
木材は、森林に生息する樹木が水と二酸化炭素を原料に、太陽エネルギーで光合成をおこなうことで作られます。木材はいわば「二酸化炭素の貯蔵庫」です。
この木材を人間が利用した後、最終的に焼却処分すると水と二酸化炭素になります。
燃やすことで二酸化炭素が発生しますが、発生した二酸化炭素はまた森林の木々の光合成によって貯蔵されます。
つまり、木を燃やすことで生じる二酸化炭素は地球温暖化には寄与しないと考えられています。この性質のことをカーボンニュートラルと呼んでいます。
したがって、木を原料としてさまざまなモノづくりを行い、石油製品を代替していくことは地球温暖化防止につながります。
また、石油由来のナフサの調達・流通が滞ると、私たちの日常生活で使う生活用品が不足したり値上がりしたりすることがあります。
私たちの暮らしがいかに化石資源に依存しているかが、こうした場面で実感できます。
石油を使わず木材から同じものを作ることができれば、暮らしの安心にもつながると思います。
日本は国土の約70%が森林であり、森林資源は豊富に存在します。また、化石資源とは異なり、植林を行えば自分自身で作ることのできる資源です。
この森林資源を上手に活用することが、持続可能な暮らしを支える一つの方法だと考えています。
研究を進める中で、最もやりがいを感じる瞬間はどのような時ですか?
研究では、「こうやればこんな結果になるのではないか」という仮説を自分で立てて、実験で証明することを繰り返していきます。
しかし、多くの仮説は外れてしまいます。そのため、自身で考えた仮説が正しかったと証明できた時には、とても嬉しくやりがいを感じます。
また、仮説とは異なる結果になった場合でも、思いもよらない発見が生まれることがあります。これも大変やりがいを感じる瞬間です。
こうした喜びを感じるには、常に自分で考え続け、多くの実験を行い、よく観察することが重要です。
貴学部では、どのような学びができますか?他大学にはない独自の強みや特色もあわせてお聞かせください。
環境科学部には、環境デザイン学科と森林科学科の2つの学科があります。
環境デザイン学科は住環境を、森林科学科は森林などの自然環境を学べる学科で、身近な暮らしの環境から自然環境まで広く学べる学部です。
どちらの学科も、講義だけでなく実習など手や体を動かして学ぶことを重視しています。
住環境も森林も、教科書だけでは学べないことがたくさんあります。音、におい、熱、触感、立体感といったものは、その場にいなければ感じ取ることができません。
森林科学科については、京都府立大学には附属演習林と呼ばれる教育研究用の森林が6つあります。
この演習林の存在から、最も面積の大きい公立大学となっています。
天然林・人工林・針葉樹林・竹林など様々な森林があり、学生の皆さんは実際の森林を見て、肌で感じながら学ぶことができます。
植樹・枝打ち・間伐・土壌調査・水質調査・植生調査など、森林を総合的に学ぶためのさまざまな実習が用意されています。
実際に演習林にある木の葉を見て何の木かを答えるテストもあるほどです。
こうした教育は全国的にも大変特徴的だと思います。
興味のある方はぜひオープンキャンパスなどの機会をご活用ください。オープンキャンパスでなくても、お問い合わせいただければ教員が直接ご説明します。
先生の授業やゼミでは、学生にどのようなことを大切にしてほしいと考えていますか?
大学では基本的に自主的な学びを尊重しています。どの授業を履修するかは個々人で選択するため、一人一人の日々のスケジュールも異なります。
私の研究室でも、最初のきっかけは私から与えることはありますが、分からないことや知らないことは自分で調べて学ぶというのが基本的な方針です。
学びの過程でアドバイスをしたり、誤解していることを丁寧に説明したりしますが、まずは自らの力で学んでいくことを大切にしています。
貴学部に在籍する学生の特徴や雰囲気を教えてください。どのような学生が多いですか?
京都府立大学では、何事にも真剣に取り組む学生が多い印象です。
きちんと授業を受け、課題もしっかりとこなしていける力を持っている学生が多いと感じます。
貴学部への進学を考えている高校生に対して、今のうちに経験・学習しておくとよいことはありますか?
特別な経験や学習は必要ないと思っています。
まずは教科書をしっかりと学び、十分に理解してください。AIに聞けば何でも答えが出てくる時代ですが、その答えが正しいかどうかをきちんと判断できる基礎学力を、高校生のうちに身につけてください。
理科・数学・英語は特に重要ですが、自分が考えたことや行ったことを正しく伝えるための文章力、書かれた文章を正しく理解する読解力も大切です。
数学で素晴らしい解法を思いついたとしても、それを論理的に書き記せなければ誰にも伝えられません。
先人の知恵を学ぼうとしても、文章を正しく理解できなければ間違った思考に陥ります。
日頃から新聞や本を読み、自分の考えを文章にまとめる習慣をつけておくと、大学に入ってからも役立つはずです。
進路選択に迷っている高校生へ、メッセージをお願いします。
大学での「学び」は高校までの学びとは異なります。大学では最終学年に自分自身で選択した研究テーマで卒業論文に取り組みます。
卒業論文では、どんな些細なことであっても、まだ分かっていない事柄に対して仮説を立てて検証し、新しい事実を明らかにしていきます。
その過程で、実験方法がない場合には実験方法から考えなければなりません。
実験器具がない場合には実験器具を自分で作ることから始めることもあります。
私自身も学生のときにガラス器具などを自作しました。理科・数学に関することだけでなく、ガラス器具の扱い方まで学ばなければなりませんでしたが、今となってはとてもよい経験だったと感じています。
大学では、自分の興味あることをとことんまで突き詰めて学ぶことができます。
そのために、時には海外で研究することもあります。皆さんが興味のある学問分野を学べる大学へ入学できることを、心から応援しています。